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Killerpass『あるいていこう』予測不可能にして色彩豊かな、現代日本の愛知が生み落としたKillerpassの新作 by 山路健二(EL ZINE)

KKV Neighborhood #187 Disc Review - 2023.10.10
Killerpass『あるいていこう』review by 山路健二(EL ZINE)

KKV-165

 こんにちは。EL ZINEという時代錯誤なパンク・ファンジンを発行しているヤマジです。
 唐突ですが、僕はKillerpassにインタヴューしたことがあるんです(2023年2月発行のEL ZINE vol.59掲載)。そこでバンドの過去作『delayed youth e.p』に収録の、"キリの中"という曲について質問した際、ヴォーカル/ギターの林はこのように語ってくれました。
「"キリの中"はジャパニーズ・ハードコアに、北欧のメロディックを融合させたら面白いんじゃないか?と思って作った曲です。PUNK LUREX OKやPOST REGIMENT辺りの女性ヴォーカルをイメージしたような記憶があります」
ノドが張り裂けんばかりの高音で林が歌い、鋭利なメロディが炸裂する"キリの中"を聴いて僕は、「PAINTBOX(『Earth Ball Sports Tournament』)とX JAPAN(『Vanishing Vision』)が合体したみたいな曲だな」と思ったんです。しかも、それまでKillerpassのことをずっとポップ・パンク・バンドだと大いなる勘違いをしていた僕は、この曲を聴いて度肝を抜かれたわけでして。
 それでインタヴューでも尋ねてみたのですが、ジャパニーズ・ハードコアと北欧メロディックの融合という想定外の答え。なんだその組み合わせは?しかもフィンランドのPUNK LUREX OKとポーランドのPOST REGIMENTをイメージした?僕はその後、"キリの中"を何度も繰り返し聴いたのですが、そこに両バンドの残り香を嗅ぎだすことはついぞ叶いませんでした…。
 さて、そんな"キリの中"が、"霧の中の悪魔"と改題、悪魔的な大幅アレンジを施し収録されているのが、10月11日にKiliKiliVillaからリリースされるKillerpassの2ndアルバム『あるいていこう』です(実に長い前振りでした)。
 "霧の中の悪魔"は悪魔城ドラキュラみたいなイントロからブラック・メタルが雪崩れ込んできたと思ったら林の金切り声が木霊して更に紆余曲折盛り沢山という、もうジャパコアとか北欧とか女性ヴォーカルとか言っていられない異形・異端のハードコアでして、もうとにかくスゴイのです。"とにかくスゴイ"なんていう、ボキャブラリーが貧困化するくらいにスゴイので、これはもう実際に聴いて頂くほかありません。一聴すれば間違いなく、"とにかくスゴイ!"と思うハズですから。
 こんな風に書くとKillerpassというのはさぞやクレイジーなバンドかと思われそうですが、そんなことは断じてありません。なにせ曲名からして"Live Fast Die Young"ならぬ"Run Fast Die Old"と健康的且つ健全。HERESY(異端)ならぬHEALTHY(健全)な面を多分に持ち合わせているバンドです。
 基本的には胸が切なくなるような、青さを孕んだメロディアス且つキャッチーなハードコア・パンク。でも、"霧の中の悪魔"のあとに、牧歌的なハーモニカの音色が鳴り響く"19号線"へと続いたり、ガーリーでキッチュなポップ・ナンバー("シューズオブスケルトン"。歌っているのはもちろん林)や、ストレートなハードコア・パンク("いきたい"。でもギター・ソロが鋼鉄)、ポリティカル・レゲエ・ソング("マイアンサー~争いを止めて~"。不器用だけど等身大の偽りなきメッセージ)など、予測不可能にして色彩豊かな、現代日本の愛知が生み落としたKillerpassでしかありえない、珠玉の楽曲が今作にはたくさん収められているのです。
 高齢化及び少子化(新規参入の若者が圧倒的に少ない)が叫ばれて久しい日本のパンク・シーンに風穴を開けられる可能性を持つバンドは、決して多くはありません。でも彼らはそんな稀有なバンドの一つであると、僕は勝手に信じています。
その親しみやすい音楽性とメンバーのルックス(他者への威嚇度は限りなくゼロ)は、パンク未体験の人たちにとっても至極とっつきやすいものでしょう。と同時に、長年に渡りパンクを聴き続けてその欺瞞にウンザリしてしまった人たちが、パンクに対して再び希望を持てるバンドこそが、Killerpassだからです。
 最後に、前述のインタヴューで林は、リリース予定のアルバム(つまりは今作)についてこう話してくれています。
「一言で言えば"挑戦"してる作品になると思います。それは聴いた人がどう思うかではなく、あくまで作り手の話です。何かに挑んでなければカッコいい作品、自分が納得できるモノは出来ないと思うので(以下略)」
現在進行形で"挑戦"し続けている彼らの魅力が詰まっているアルバム『あるいていこう』。
 パンクを諦めるその前に、今作をどうか聴いてみてください。


Killerpass


Killerpass / あるいていこう

KKV-165
CD
2,750円税込

ここにあるのは、生きることとパンクであり続けることを考え、日々の悪戦苦闘を乗り越えようとする青年の姿。答えはないけど、この音楽が嘘のない今の気持ち。
ゲストにYOUR SONG IS GOODのJxJx、ETERNAL ELYSIUM/STUDIO ZENのYukito Okazakiが参加、歌詞を収録したブックレットに中村明珍のイラスト多数掲載、アートワークはHIROSHI from THE GUAYSが担当。

収録曲
1.うず
2.悲しみはとまらない
3.偽善者でかまわない
4.あるいていこう
5.アンダースタンド
6.シューズオブスケルトン
7.Run Fast Die Old
8.いきたい
9.霧の中の悪魔
10.19号線
11.いこうぜ
12.マイアンサー~争いを止めて~
13.プロテクトソング


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