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圧倒的主人公「じゃないヤツ」は夢に挑戦できるのか【映画評】BLUE GIANT

私は仕事柄、起業家や経営者の方によくお会いします。
そこでいつも感じるのは、「圧倒的主人公」感です。

多くの方は、特別な才能があったり、目標に向かって盲目的に努力ができたり、強烈な挫折や原体験をお持ちだったりします。きっとそれらが夢に挑戦するガソリンになるのだなと感じます。
夢は、叶えることはもちろん、挑戦するだけでも多大なエネルギーが必要です。
圧倒的主人公でない多くの普通の人はそのエネルギーがないので、夢に挑戦せず「俺はまだ本気出してないだけ」状態で生きることになります。

この記事では最近話題になった映画をもとに、そんな圧倒的主人公「じゃないヤツ」が夢に挑戦するために必要なことについて考えてみます。


映画の紹介:BLUE GIANT

ビッグコミックで連載の人気ジャズ漫画「BLUE GIANT」の映画です。昨年公開され、有名なジャズ・ピアニスト上原ひろみさんが楽曲提供&音で出演されていることでも話題になりました。
主な登場人物は18歳の青年たちです。

  • 仙台出身で世界一のサックスプレーヤーを夢見て上京する宮本大

  • 幼い頃からジャズピアノを習い、既に凄腕ピアニストである沢辺雪祈

  • 宮本くんの高校時代の同級生であり、初心者からドラムを始めた玉田俊二

この3人のバンド『JASS』が、日本最高峰のジャズクラブSo Blue(表参道のBlue Noteがモデルと思われます)への出演を目標に活動する青春ストーリーです。

圧倒的主人公「じゃないヤツ」、玉田俊二

私が最も感情移入したのが、玉田くんでした。

宮本くんは、サックスの音に魅せられて、仙台の川辺で高校時代の膨大な時間をサックスの練習に費やします。周囲の声も気にせず、ある意味バカになって努力できる圧倒的主人公です。

沢辺くんも負けていません。幼少期からジャズというマイナージャンルの音楽を嗜む類まれなエリートであり、その美貌と、作中で経験する大きな挫折は彼を圧倒的主人公に仕立て上げます。

一方の玉田くんは、極めて普通の男子なのです。
高校時代はサッカー部で県大会ベスト8という「まあまあな運動神経」。見た目も「まあまあ良い感じ」。
そんな玉田くんが、他のふたりを応援する立場ではなく、共に主人公となって夢に挑戦できた理由を考えてみました。

夢に挑戦できた内部要因(玉田くん自身に関すること)

①夢に初期投資した

行動経済学に「プロスペクト理論」というものがあります。

この理論によると「人は損をしたくない生き物」です。
それゆえ、負債を抱えるとそれを回収するために普段は避けるようなリスキーな選択肢も取るようになるそうです。

玉田くんは宮本くんのサックスの音や夢への姿勢に感化され、自分もドラムを始めてみたいと思います。
そして彼が最初に取った行動が、36回払いローンで電子ドラムを購入することでした。電子ドラムは安いものでも数万円以上はするので、仕送り頼みの大学生にとっては大きな買い物だったことでしょう。
この数万円の負債(ローン)を抱えたことが、玉田くんが夢へ挑戦するひとつの弾みになったのかもしれません。

②「下位20%」に入らない程度の才能があった

序盤に、玉田くんが宮本くんに頼まれて、空き缶をお箸で叩いてメトロノーム(時計の振り子のように一定の速さを刻み続ける)をするシーンがあります。玉田くんがまだドラムを始める前の出来事です。
それを見て私は、「あ、普通に音楽できる子だな」と思いました。

私は学生時代に管楽器をしていましたが、このメトロノームでさえ1年やってもまともにできない人はいます。音楽では、リズム感という才能が欠如しているとどれほど頑張っても上手くなるスピードが極端に遅いように思います。
音楽に限らず、誰にでも他人の倍頑張っても他人の1/10も上手くならない分野があります。
ある程度上手くなるのに時間がかかりすぎると、努力するモチベーションはなくなってしまいます。夢に挑戦する上で、とびきり上位ではなくとも「下位20%」には入らない程度の才能は必要なのでしょう。

③心身ともに元気であった

初ライブで玉田くんが大きなミスをしてしまい、落ち込んだ末した行動が印象的です。
牛丼屋→ハンバーガー屋→中華屋とハシゴしてバカ食いをし、自分を奮い立たせるのです。
健康体であることは、夢に向かって頑張ることの必須条件ですね(これだけしても翌日もたれない10代の胃力が羨ましい)

夢に挑戦できた外部要因(環境に関すること)

④「身内ブロック」が無かった

起業家支援の界隈では、「嫁ブロック」という言葉があります。サラリーマンという固定給の職を捨てて起業を夢見る夫を、妻が引き止めるという状況を指します。
いくら本人にやる気があり決心がついていても、大切なひと(身内)からのネガティブな声はその決心を簡単に揺るがせてしまいます。

玉田くんはジャズに熱中するあまり、大学で留年してしまいます。お金をかけて東京で一人暮らしをさせる息子が留年したとなると、激怒する親も多そうです。
ですが、玉田くんの親は「いまは熱中したいこと(ジャズ)をやらせてください」と伝えた玉田くんを認めてそっとしておいてくれます。
身内ブロックがなかったことも、玉田くんが夢に挑戦できた理由だと思います。

⑤下手な時代に立てる表舞台があった

私はアイドルの卵たちがデビューを目指すサバイバル(公開オーディション)番組をよく見ます。
そういった番組で人気が出るのは2タイプあって、「圧倒的に上手い子」と「圧倒的に成長する子」です。後者は、最終的な実力の高さというよりは、最初のド下手時代からの成長幅が視聴者の感動を産むのです。

玉田くんがラッキーだったのは、ドラムを初めて3ヶ月の時期にライブの舞台に立てたことだと思います。
玉田くんにはひとりのおじいさんのファンがいました。
他の2人に比べてまだ実力がなくファンも少なかった玉田くんに、おじいさんは「私は君の成長するドラムを聞きに来ているんだ」と声をかけてくれます。
圧倒的主人公「じゃないヤツ」は夢に向かって盲目的に努力できないゆえに、周囲からの応援の声が挑戦への何よりのガソリンになります。
今時点の実力の絶対値ではなく、過去の自分からの成長を認めてくれる人がいる。その応援の声を直接聞けたことは、玉田くんにとって夢に向かって頑張る着火剤になったはずです。

下手くそな時代に表舞台に立つのには、勇気がいります。野次を飛ばされることもあります。
しかしこの下手くそな時代に表舞台にたち、誰かに「見つけてもらう」ことをしないと、その先の成長幅に感動し応援してもらえる可能性はないのです。

まとめ

私も玉田くんと同じく、圧倒的主人公「じゃないヤツ」です。何事もそこそこ上手くは出来るけど1番になれるような才能はないし、いつも周りの様子を見ちゃうし、なんだかんだ大きな挫折もなく人生を過ごしてきたタイプです。

そんな私ですが、フリーランスライターになるという夢に向かって、このnoteという舞台に記事を書き続けようと思います。
まだ下手くそですが、少しでも「成長幅」が見えましたらスキボタンで励ましていただけると幸いです。




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