梯 慶太 Keith Kakehashi

音楽とスキーを愛する経営人事コンサルタントが乱読する書籍と好きな音楽を紹介します。神戸…

梯 慶太 Keith Kakehashi

音楽とスキーを愛する経営人事コンサルタントが乱読する書籍と好きな音楽を紹介します。神戸出身、川崎市宮前区在住。HIRAKUコンサルタンシーサービシズ代表。ジャパン・インターカルチュラル・コンサルティングシニアコンサルタント。株式会社シフト・ビジョン取締役。

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  • Willin'

    1962年生まれのKeith Kakehashiの視点で描く音楽、映画、書籍などエクレクティックなカルチャーマガジン。タイトルのWillin’はLittleFeatの名曲が由来。

最近の記事

ブックレビュー「みんな水の中」

先にご紹介した「普通という異常 健常発達という病」に続いて、こちらも発達障害者による当事者本だ。 著者の横道誠氏は京都府立大学文学部国際交流学科(ドイツ言語文化)の准教授で、40歳の頃に仕事を休職したことをきっかけに発達障害の診断を受け、その後発達障害に関する書物を読み、また現在は余暇を「発達仲間」との交流や自助グループの運営に充てている方だ。 著者によると「本書に書いていることは、私という唯一無二の人間の自己解剖記録」であり、私と私の仲間による当事者研究の成果、だという

    • ブックレビュー「普通という異常 健常発達という病」

      本書を知ったのは日経新聞で本年4月13日に「発達障害、多様な実態 広範な濫用には問題も」という記事の中で本書と「発達障害大全」、「みんな水の中」が紹介されていたからだ。 本書は「みんな水の中」と同様に当事者本であり、精神科医の斎藤環氏により「定型発達者も「ニューロティピカル」という病理を持つのではないかと主張する。それは例えば、他者の「いいね」(=まなざし)に束縛されやすい病理であり、それを抜け出すには、身体的な反応と自分自身がほぼ一致するような「デカルト的コギタチオ」の認

      • ブックレビュー「自由と成長の経済学 「人新世」と「脱成長コミュニズム」の罠」

        本書は2月5日にブックレビュー「人新世の「資本論」」をUpした「人新世の「資本論」」への反論本である。 こちらは従来の資本主義を徹底的に擁護する立場にあるだけに至って論旨はシンプルだ。 著者の基本的な主張は、コミュニズム、社会主義はすべて全体主義に陥ったことは歴史の事実であり、資本主義との優劣ははっきりしている、したがって「「人新世」の資本論」が主張する脱成長コミュニズムは民主主義と相いれるはずが無い、ということにある。 資本主義のおかげで平均寿命は70歳を超え、途上国

        • ブックレビュー「トヨタ中国の怪物 豊田章男を社長にした男」

          本書はノンフィクションを多く手掛けている児玉博が書き下ろした作品。過去著者が手掛けたものには堤清二、宇野康秀、西田厚聰、國重惇史など名の知れた財界人のものが多いが、本書は一般的には知られていない服部悦雄を描いたものだ。 タイトルは「中国の怪物」と潜在読者の目を惹くものになっているが、内容の前半は服部氏が27歳まで滞在した中国での悲惨な経験を綴り、後半は運よく日本に帰国し、偶然入社したトヨタで伝説の名社長奥田碩の下、さらには豊田章男に全面的に中国戦略をまかされたサクセスストー

        ブックレビュー「みんな水の中」

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        • Willin'
          142本

        記事

          ブックレビュー「奔流 コロナ「専門家」はなぜ消されたのか」

          2023年5月に五類に移行した新型コロナウイルス感染症法上の扱いだが、日本で新型コロナウイルスが広がり始めた2020年初頭からの3年余りの間、奔走した専門家たちがいた。 その中でも、必要なら専門家の枠を越え一歩も二歩も前に出ることを厭わず、巧みなコミュニケーション能力を発揮した尾身茂が、首相官邸で岸田文雄氏とおこなった最後の面談はわずか15分だった。 英国で尾身と同様の立場である主席科学顧問のパトリック・バランスと主席医務官のクリストファー・ウイッティという二人に医学者が

          ブックレビュー「奔流 コロナ「専門家」はなぜ消されたのか」

          ブックレビュー「私労働小説 ザ・シット・ジョブ」

          私が著者のブレイディみかこ氏を知ったのは2019年作『ぼくはイエローでホワイトで、ちょっとブルー』が評判になったからだった。同書はまだ読んでいないのだが、本書はタイトルからしてPunk精神を感じたのでこちらを先に手に取ることとした。 著者は1965年生まれなので私と同世代と言って良く、日本在住時からPunk Music、特にJohnny Lydonに影響を受けたらしい。 著者は、福岡県立修猷館高校卒業後、すぐに英国に渡英、ロンドンやダブリンで職を転々とし、無一文になって日

          ブックレビュー「私労働小説 ザ・シット・ジョブ」

          ブックレビュー「シナリオ・プラニング 未来を描き、創造する」

          企業が予算作成のプラニングをする際には、だいたい今の状況の延長線上を前提にしていることが多い。予算の時間軸はせいぜい1-3年だろうし、このため「今日と明日はだいたい同じ」という前提になってしまう。 しかし色々な業界で、過去の延長線上でしか戦略を準備して来なかったがために消滅してしまった企業がある。ポラロイド、サン・マイクロシステムズ、ボーダーズ、ナップスター… 私の好きな格言に”Hope for the Best, Expect for the Worst”(最善を望み、

          ブックレビュー「シナリオ・プラニング 未来を描き、創造する」

          ブックレビュー「DAOの衝撃」

          本書で”Web3”関連書籍を読むのは5冊目となり、流石に斜め読みできるようになってきた(気がする)。本書の発行は2022年11月。 著者は「Web3総合ビジネスサロン」を主宰する人で、これまでの経験を活かしてリアルとWebの融合を得意としているらしい。 タイトルはCatchyだが、内容は意外とオーソドックスで、コンパクトにかつ平易な表現なので入門書としては大変読みやすい。特にDAOの代表例のChapterは今まで読んだ本の中では最もわかりやすかった。 また具体的なDAO

          ブックレビュー「DAOの衝撃」

          ブックレビュー「鑑識レコード倶楽部」

          本書が発行されたのは2022年4月で、当時友人が読んだ、と言っていたのを覚えている。 それからすぐに自分のBook to readに追加していたのだが、なかなかAmazonでは中古で手に入らなかった(せこい話ですみません)。仕方が無いので一度は海外の出品者から洋書の中古を注文したのだが、値段が安いな、と思っていたら、どうも全うな業者では無かったようで、待てど暮らせど到着しなくて、結局キャンセルした。 そういう紆余曲折があった本書がやっと手に入った。 読んでみると翻訳者の

          ブックレビュー「鑑識レコード倶楽部」

          2023年 年間アルバムベスト10

          2020年から始めた年間アルバムベスト10も今年で4年目(2020年はこちら、2021年はこちら、2022年はこちら)。 なかなか新譜を聴くだけの時間が確保し辛い今日この頃ですが、各種Mediaや評論家の方々の推薦アルバム、お気に入りのMusiciansの2023年発売アルバム合計237枚から私の好みの10枚を選んでみた。 1. ”Folkoracy” by Rufus Wainwright Rufus通算12枚目のAlbumは母親であるKate McGarrigleや

          2023年 年間アルバムベスト10

          ブックレビュー「メタバースとWeb3」

          昨年来続く流れで、本書で”Web3”関連の書籍を読むのは四冊目、その内ブックレビューを公開したのは二冊目(一冊目はこちら。まだnoteのドラフト段階のものが二つほどある)。 本書はWeb3がバズった2022年4月に第一版が発行されている。他の書籍も同年の末までに発行されたものが多く、Google Trendで見てもWeb3のピークは2022年7月なので本書発行のタイミングは適切だったと思われる。 過去読んだ四冊にはそれぞれ特色があるし、著者のキャラクターやポジション、出版

          ブックレビュー「メタバースとWeb3」

          ブックレビュー「すべては一人から始まる ビッグアイディアに向かって人と組織が動き出す「ソース原理」の力」

          本書の原題は”Work with Source”で副題は”Realize Big Ideas, Organize for Emergence and Work Artfully with Money”。 著者はTom Nixonという英国在住の起業家・コーチ・アドバイザーだが、元のSourceという考え方は既に一線を退いたPeter Koenigが10年以上の探求を通じて得た洞察をTomが自ら取り入れた経験を踏まえてまとめた本である。 まずSourceとは何か。 Sou

          ブックレビュー「すべては一人から始まる ビッグアイディアに向かって人と組織が動き出す「ソース原理」の力」

          ブックレビュー「人新世の「資本論」」

          日経新聞に「リーダーの本棚」というコラムがあって、各界のリーダーが自分の推し本を毎週紹介している。 通常あまりこういったビジネス関連の推し本は余程のことが無い限り参考にしないのだが、群馬県知事である山本一太が次のように述べていたので興味を持った。 この山本氏という政治家自身に特にシンパシーがある訳では無いが、二つの相対する意見を比べるという姿勢は好感が持てた。 ということでまずは「人新生の「資本論」」を読んでみることにした。 本書は2020年9月22日に第一版が発行さ

          ブックレビュー「人新世の「資本論」」

          ブックレビュー「ロビー・ロバートソン自伝 ザ・バンドの青春」

          昨年8月に亡くなったRobbie Robertsonだが、長年の親友だったMartin Scorseseの映画”Killers of the Flower Moon”の音楽担当として初めてAcademy AwardのOscarにNominationされたらしい。 何と言っても「初めて」というのに驚く。と言うのも今回取り上げた本書では彼が映画に大変興味を持っていたことがうかがい知れるからだ。同じMartin Scorseseの遠藤周作原作の映画「沈黙」のMusic Direc

          ブックレビュー「ロビー・ロバートソン自伝 ザ・バンドの青春」

          ブックレビュー「欲望という名の音楽 狂気と騒乱の世紀が生んだジャズ」

          今年最初のブック・レビューは音楽モノから。 本書は、昨年7月に出版されたもので、日米の二十世紀のジャズの「裏面史」を掘り下げ、ジャズの毒を絞り出すことを探求した本だ。 米国では、ニューオリンズの地方音楽だったジャズがシカゴ・ニューヨークを皮切りに全米に広がっていったことで20世紀を代表とする大衆音楽になっていったのがいわば表の歴史だ。その裏には戦争、売春、ドラッグ、酒、犯罪、人種差別、民族差別、リンチといった人間の「業」の結晶として生まれたジャズの歴史がある。 いまや世

          ブックレビュー「欲望という名の音楽 狂気と騒乱の世紀が生んだジャズ」

          2023年ありがとうございました

          今年のViewerとスキ件数がまとまりました。読んでいただいた方々、スキをくださった方々に感謝すると共に来年も引き続きよろしくお願いいたします。

          2023年ありがとうございました