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手作りの独楽(こま)

製品として作られた独楽はきれいに回る。

みなが澄んだという回転最中の不動に見える一刻の魅力にみとれて、ノボルは例のはな汁をたらすが、買って欲しいといい出す言葉を持ちはしない。

吉野せい「洟をたらした神」

家の経済状況を知っているから、ノボルは買って欲しいとは言わない。

だから自分の手で作る。「澄む」美しい回転は無理だが、個性ある回転になる。

大量生産されたものには、整った造形の美、研究された運動の統一した安定があるだろうが、この幼い子の手から生まれたものには、無からはじめた粗野があり、危なっかしい不完全があっても、確かな個性が伴う。おそらく五つが五つ、みんなちがったそれぞれの踊りを潜み持ち、展開してみせるだろう。

吉野せい「洟をたらした神」

ここまで読んで、昨日のスギ薬局とメリッサ(リーガロイヤルホテル大阪)を思い出した。

スギ薬局に入って、すぐ右手がレジカウンター、そこで男女の店員が談笑している。いらっしゃいませ、なし。

商品を2つ手に取り、レジへ。男女のおしゃべりは止まらない。セルフレジをしろ、ということなんだろうが、スギ薬局のそれはハーバード大入試より難しい。

お話中申し訳ないですが・・・という体で人間のいるレジへ行った。女店員は仕方なくぼくの相手を始めた。というか、読み取りと「レジ袋どうなさいますかー」だけだ。後はお前がマシン相手に精算しろ。

メリッサ。ここは老舗で、リーガロイヤルホテルの顔とも言える。

レジに三人女店員がいる、一人が先の客の相手、残り二人は尻向けて何やらやってる。

ここにもスギ薬局と同じマシンが置いてあり、自分で現金なりカードなり何なりやれ。

そういえば、歯科医院も同じマシンで、患者がセルフで精算する。

ある雑誌、定期購読をやめることにした。指定された電話番号にかけたら

「・・・のかたは2を、・・・のかたは3を」

やられ、2回ほどタップすると「長らくご購読ありがとうございました」とマシンボイスがお礼言った。この4月からなんだけど、それでも長いのか。

この雑誌、「定期購読する」までに異常なエネルギーを使ってる。

ちょっと検索すると、あちこちに広告が出てくる。

ビジネス番組でもがんばってる姿見せてた。
でも、この、「カネの切れ目が縁の切れ目」風「退会の空気」はなんだろう。

以前、「エビフライのしっぽ」というのを書いた。

普通、エビフライのしっぽは食べない。でも、食べないからといって、最初から取り除いてしまうと、ビジュアル的に、決定的に、落ちる。ヘタしたらウンコに見える(笑)

機能だけで考えると不要だけど、でも、絶対的に必要なもの、つまり、エビフライのしっぽのようなものって、世の中にはたくさんある。

思えば、スギ薬局談笑男女店員、メリッサ店員、歯医者受付、雑誌のマーケティング思想、すべてレジに置いてある精算マシンと同じく、大量生産された工業製品化している。

そこにエビフライのしっぽは、ない。

吉野せいさんの
「この幼い子の手から生まれたものには、無からはじめた粗野があり、危なっかしい不完全があっても、確かな個性が伴う。おそらく五つが五つ、みんなちがったそれぞれの踊りを潜み持ち、展開してみせるだろう」

これこそが商いの面白さなのに、いまや商いはビジネス化し、大量生産の製品になった。

いまこの本と出会ったのは、必然のような気がしてならない。

手作りの独楽を、目指そう。

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