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あとがき

 詩集を、先ずは、あとがきから読む人もいる。あとがきを読み終えたとき、この詩集は読む価値がないと判断されることもあり得る。拙詩集『水栽培の猫』のあとがきを、最初に書いたときは、猫の死と私との距離が近すぎた。詩人のNさんにお見せしたところ、「これでは猫のレクイエムの詩集だと勘違いされてしまう。貴女が書きたいのは、それだけではないはずよ」と、アドバイスを下さった。
 ご指摘の通りである。喪いたくないのに私から消えてゆくもの、光のような香りのような湿りのような決して繋ぎ留めておくことはできない私だけの大切なものを、忘れないために書いたのだった。

 抱きしめすぎて毀れてしまった人形のような風景が、心に降ってくることがある。見失わないように、私はそれを、言葉に置きかえる。私にとって詩を書くとは、そういう行為だ。詩集のタイトルとした『水栽培の猫』は、昨年七月、資生堂・花椿「今月の詩」に選んでいただいたものである。その月の終わりに、十五年間、共に暮らした猫は昇天した。表紙に使った画像を拡大したら、左の眸に、私が映っているのが見えた。今も、猫は、私を見守ってくれているらしい。
         (『水栽培の猫』あとがき、部分)
          
橘しのぶ詩集『水栽培の猫』
      思潮社2024年5月31日発行

5月19日の文フリ東京、思潮社ブース せ-3、で先行販売の予定です。よろしくお願いいたします。



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