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おしゃべりな猫

 次郎は、私が初めて飼った猫だった。最初のうちは、可愛いのと、もの珍しいのとで、毎晩一緒に湯船に浸かって入浴した。次郎が乾燥フードを食べる時は、その横に柿の種を入れた小皿を並べ、私も四つん這いになって猫と同じ仕草で、カリッカリッと音をたてて食べた。次郎の好物の鮪の刺身が食卓にのぼる頻度も高かった。自転車の前カゴに乗せて、町内をドライブした。滑り台を一緒に滑った。
 気がついた時には、次郎は、猫の鳴き方を忘れていた。「おはよう」と声をかけると、はっきり「おあおー」と応える。ア行の音「あおー」とか「おう」で、喜怒哀楽を伝えてくれるようになった。晩年、糖尿病を煩い、定期的に動物病院に通院するようになったが、採血が終わると必ず、まっすぐ獣医師の目を見て「あっ」と言った。「『ありがとう』って言いましたね」と、先生は笑っておられた。
 


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