紙ひこうき 詩集『しなやかな暗殺者』より
とほうもなくながい
らせんかいだんのとちゅうで出くわした
わたしはたちどまり
そのひとはわたしの手をとった
わたしのこころはおおきく
一度だけゆれた
あめだまがわりにしゃぶっていた
つれあいののどぼとけをのみくだした
あの日から
あのらせんかいだんが
きんいろにもえはじめるとき
たちどまってしまう
秋草みたいにゆれるこころは
リボンでたばねて
てすりから
少女のように身をのりだして
くれまどう空にむかって
紙ひこうきをとばす
(全文)
ほんの少し知っているだけの人と、繁華街のメインストリートで出くわして、突然、手をとられたことがあった。とられたというか、私の両手をその人の両手が包み込む形だった。私みたいなものに出会ったことが、奇跡のように嬉しかったらしい。私はただ呆然としていた。
橘しのぶ第二詩集『しなやかな暗殺者』
梓書院1999年3月20日発行
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