見出し画像

詩の教室 中尾一郎

 岡山の同人詩誌『ネビューラ』に、中尾一郎さんが連載しておられる『詩の教室』に注目している。小、中学生を対象に、中尾さんは公民館で詩の教室を開催し、その様子をエッセイに綴っている。理屈でなく、肌で、子供たちに寄り添い、詩の楽しさを伝えておられる。私自身、子供の詩の選考をする機会があるので、たいへん参考になる。

 例えば、草野新平の『春のうた』の講義が面白い。(『ネビューラ』87号より)

 春のうた
    草野 心平
 
かえるは冬にあいだは土の中にいて春になると地上に出てきます。そのはじめての日のうた。
 
ほっ まぶしいな。
ほっ うれしいな。
 
みずは つるつる。
かぜは そよそよ。
ケルルン クック。
ああいいにおいだ。
ケルルン クック。
 
ほっ いぬのふぐりがさいている。
ほっ おおきなくもがうごいてくる。
 
ケルルン クック。
ケルルン クック。
            (全文)

 音読させた後、二つの「ほっ」について、考えてもらう。「やっほー」の「ほっ」か、「やれやれ、ほっとした」の「ほっ」なのか、と。これなら子供にもよくわかる。発言しやすい雰囲気だからこそと思うが、子供たちの解釈は自由で楽しい。「いいにおい」について、「春の匂い」(←大人はみんなコレ)と答える子もいれば、お腹がすいたから食べ物のおいしい匂いという答えも返ってくる。「くも」についても、雲(←大人はみんなコレ)と蜘蛛に意見が二分し、蜘蛛派が多かった。子供たちは先生に正解を求めるが、中尾さんは「答えは無い」と答える。確かに、詩に、答えがあってならない。
 多様な解釈が可能になるのは、草野新平の詩がひらがなで書かれていることと、言葉と言葉との間に程良い距離があるからだ。1行ごとに、句点が置かれているのも大変効果的だと、今回気がついた。中尾さんの『詩の教室』、次回も楽しみにしている。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?