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愛称

 私は、夫を、「ぶたくん」という愛称で呼んでいる。太っているのではない。アメリカ映画の『ベイブ』の主人公に似ているからだ。子豚のベイブは、色白で上品、優しい顔している。勇気があって賢い。そんなところが、夫と共通している。

 夏目漱石は、胃潰瘍で入院した時、担当の看護婦に「鼬」という渾名をつけた。

或時何かのついでに、時に御前の顔は何かに似ているよといったら、どうせ碌なものに似ているのじゃ御座いますまいと答えたので、およそ人間として何かに似ている以上は、まず動物に極っている。外に似ようたって容易に似られる訳のものじゃないと言って聞かせると、そりゃ植物に似ちゃ大変ですよと絶叫して以来、とうとう鼬と極ってしまったのである。(『思い出す事など』より)

 鼬と、ユーモラスな愛称で呼ぶくらいだから、自分の命を預かってくれている看護婦さんに、漱石がいかに心を開いていたか、察することができる。「植物に似ちゃ大変」というのも面白い。女性の容貌を褒めるとき「薔薇のように美しい」とか、言いがちだけれど、それは美しさの程度であって、顔が本当に薔薇だったら怖い。

 私は、人から、猫みたいと言われるが、先日、家族から、タスマニアデビルに似ていると言われた。なるほど、外面は猫で、家の中ではデビルちゃんか。大いに納得した。

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