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三好達治『雪』

 詩誌『プリズム』掲載の、小野ちとせさんの評論
が佳かった。幕末の漢詩人、藤井竹外について書かれた8回目(最終回)であるが、幾つかの類似性を持ち、同じ摂津の国高槻の人、三好達治についても言及されている。
 私は知らなかったのだが、達治は、9人兄弟の長男であるにも関わらず、6歳の時、養子に出されたらしい。「生まれて間もない記憶のない頃であればともかく、六歳という年齢を考えると、繊細な男の子の悲しみ、疎外感は想像絶する」と小野さんは言う。達治の代表作、『雪』について、

太郎を眠らせ、太郎の屋根に雪ふりつむ。
次郎を眠らせ、次郎の屋根に雪ふりつむ。
                   (全文)
 『雪』の句点について、「太郎(長男)と次郎(次男)は、達治のなかでは同じ屋根の下にはいない。平明さのなかにある二行のはかりしれない深さは、冷たい雪のようでもある」との小野さんの解釈は、衝撃的だった。他家の子にされた達治(太郎)の孤独感が、私の心にも、純白の雪となってふりつんだ。

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