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北川透 大いなる眠り、禁断の父 橘しのぶ詩集『しなやかな暗殺者』覚書 ⑤

拙詩集『しなやかな暗殺者』に頂いた北川透さんの推薦文が、素晴らしいので、全文あげます。長文ですので、何回かに、分けて掲載5回目。


 その危ない迷路とは何なのか。ここではさしあたって、それは〈父〉と娘の物語の中にある、と言っておこう。〈父〉は娘を支配する絶対的権力者でありながら、その権力の発現が常に無償の愛とう形をとっている限り、娘は〈父〉の支配を、むしろ、快さとして受け入れてしまい、そこから逃れられない。両者の愛は生殖をタブーとするが故に、感情(幻想領域)において、かえって強固な〈性〉の磁場を生みださざるをえないからである。これを〈父〉と息子との関係で見たらどうか。〈父〉がどんなに無償の愛を傾けても、子はそこに自分を支配する、権力者の匂いを嗅ぎ取ってしまう。だから〈父〉と息子の関係は、常に権力闘争の修羅場だ。この〈父〉と娘の解いても解ききれない迷路性は、すでに巻頭の「時」と言う作品に顕である。
               (続く)


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