北川透 大いなる眠り、禁断の父 橘しのぶ詩集『しなやかな暗殺者』覚書 ②
拙詩集『しなやかな暗殺者』に頂いた北川透さんの推薦文が、素晴らしいので、全文あげます。長文ですので、何回かに、分けて掲載の2回め。
大いなる眠り、禁断の父②
特に、この人の名前が記憶に残っているのは、わたしが「中国詩壇」を担当して、最初に選んだのが橘さんの「匣」という作品だったからだ。それは若干の借辞の修正を受けて、この詩集に収められているので、それを見てもらえば、わたしが文句なしにこの作品を選んだ理由はわかってもらえるだろう。─かつて十四歳ごろ、落とし物を拾うように、不意にあの人に抱いた片思い、それを白い匣に封じこめて燃やしてしまう。しかし、ふとしたことから気づいた、あの人へのジェラシーによって〈わたし〉の思いが燃え尽きていなかったばかりか、成長さえしていることを知り、危険な衝動が身内を走るのである。この作品は少女期の片思いの不安な動揺に、よくことばが届いている。
(続く)
橘しのぶ第二詩集『しなやかな暗殺者』
梓書院1999年3月20日発行
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