【人生と投資、時々映画】あなたの適正価値はいくらですか?(24/4/18)

忘れられない思い出があります。
もう30年近く前、私は商社の若手研修員としてロンドンの現地法人に派遣されました。国際金融の現場で為替ディーリングを習得するためでした。最初の1ヶ月は邦銀、続いて外銀に放り込まれ、そこでまず為替市場とはどういうものか、生で経験して学び取れ、と命じられたのです。外銀での研修中に私は同じ年代のマークという男と仲良くなりました。ラグビー好きという共通項から不思議とウマが会い、何度かパブで馬鹿話に興じたものでした。
ある日の事、仕事の終わり掛けに、私はマークに、そう言えば、日本にいる時は何時間も残業させられたんだよね、という話をしました。軽い気持ちで。でも、残業代なんて全く出なかったんだ、と。
当時は丁度バブル崩壊の傷がいえない時期で、世の中全般に残業代の出ない会社は多かったと思います。特に若手社員は、勉強させてもらっているんだ、という意識が強くて、残業代下さい、なんて言い出せない雰囲気が一般的でした。私も、「そうか、大変だったんだな。」という同情を期待していたのかもしれません。
しかし、その話を聞いたマークは、突然、私に怒り出しました。何故、お前は命ぜられるまま、タダ働きしたのか、お前は、自分の労働を何だと思っているのか?Are you a slave ?(お前は奴隷か?)と。
ビックリしました。マークが同情してくれるかと思ったら怒り出したのですから。でも、彼の言葉には、真剣味がありました。きっと彼には、私が職場の雰囲気に押されて、労働という価値あるものを言われるままにダンピングしている情けない人間に見えたのでしょう。自分の労働にもっと誇りを持て、と言っているようにも思えました。お前の働きには価値があるんだ、と。日本と海外の労働の価値観に大きな違いがあることを感じた瞬間でした。
それから30年近くたちました。今ではコンプライアンス経営が徹底され、さすがにハナから残業代の出ない会社は少数派でしょう。ブラック企業とのレッテルが張られれば、若手社員の採用に苦労する時代です。
ただ、一方で、日本は相対的に貧しくなりました。この30年、ほとんど賃金上昇の無いまま。海外ではこの間、一人当たり国民所得が20倍、30倍になった国も少なくありません。先進国でも3倍、4倍が一般的です。デフレや円安など様々な要因はありますが、日本人はあまりにも自らの労働の価値に無頓着だったのではないか、と思わずにはいられません。確かに日本人は真面目です。礼儀正しく、おとなしい。売買の場では常にお客さんに丁寧に接することが美徳とされています。しかし、だからと言って自分の適正価値を考えなくて良いという事にはならないでしょう。
1年後、為替市場の経験を積んだ私は日本に帰国しました。仲が良かったマークに別れの挨拶に行くと、彼はもういませんでした。彼と仲の良かった同僚に聞くと、マークは為替のディーリングで十分稼いだので、その金でバイクを買い、世界一周旅行に出かけた、との事。
私は今でも東京の街角に彼がひょっこり現れないか、目を配って見ています。
皆さんの適正価値はいくらですか?

さて、ここからは相場の話。
金が値上がりしていますね。去年の8月に初めて1グラム1万円突破したかと思ったらもう1万3千円。円安と中東情勢のダブルの効果で、天井知らずの様相。90年代、金は金利を生まない「終わった」資産として忌み嫌われ、各国中央銀行は保有する金を売りまくっていたのがウソのようです。史上最安値は98年につけた1グラム865円。
金が買われる理由として、私は、もう一つ、米大統領選の影響もあるのでは、と思います。トランプが勝っても負けても、世界の混乱は必至。であれば、その前に「有事の金」を仕込んでおこうか、という流れが出来るのは当然のこと。
もっとも、この26年で金の価格が15倍になったという事は、逆に、円の価値が15分の1になったとも言えますね。長い歴史の中では金の価値こそが根源的価値であり、通貨の価値はその時の国が保証するものに過ぎない、と考えるほうが一般的ですから。

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