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10月7日から半年、日本のメディアはイスラエルとハマスの戦争をどう報じているのか?

以下は、ディラン・オブライエン(Dylan O'Brien)氏による、FCCJの記事を、ご本人の許可によって、日本語訳をしたものです。

2024年3月15日、Xに投稿された「殺人で利得を得る会社の旅(Murder Profiteering Company Tour)」抗議デモのビデオの画面キャプチャ。デモ参加者は、イスラエルのドローン技術と関係のある日本企業4社の前でデモを行った。動画はこちら: https://twitter.com/ChooselifePj/status/1769273299325034920

 ここ数カ月、日本を拠点とするイスラエルへの抗議活動は、仙台から広島まで多くの人々を引きつけている。イスラエルへの反対は、もはや政治的に積極的な大学生や平和活動家、パレスチナを専門とする教授だけのものではない。それどころか、イスラエルへの反感が高まっていることを示す証拠は、いたるところで見かけることができる。週刊プレイボーイ』4月1日号では、「イスラエルとハマスの戦争に対して経済制裁を課すことを、なぜ私たちは語らないのか」と問いかけている。また、3月22日の北海道のニュース番組では、網走の小学生がガザの悲惨な人道的状況について書いていることを報じていた。

3月22日(金)に放送された北海道放送の画面キャプチャー(未成年の顔はぼかし編集)。「不自由な生活」を体験するキャンプに参加した小学6年生の子どもたち3人に密着し、パレスチナの子どもたちの体験を考えるという内容。彼らは網走の観客の前で、自分たちの体験を綴った作品を披露した。切り抜きは次の動画で視聴可能:https://www.youtube.com/watch?v=ZoLjc1XEFEQ

 この主張は、日本のソーシャルメディアで「イスラエル」とタグ付けされた投稿を拾い読みしただけでも、「ISRAEL ALONE(イスラエルは孤立した)」と宣言した『エコノミスト』誌の最近の特集記事からも、裏付けられる。この記事は、イスラエルに対する国際的な外交的後ろ盾の喪失を誇張しすぎているかもしれないが、イスラエルが文化的・政治的資本を流出させる原因となっている、非常に現実的な世界的反発を物語っている。

 イスラエルに対する国際的な批判の波は、日本にも押し寄せている。2005年に始まった「ボイコット、投資撤収、制裁」運動(BDS)は、日本ではほとんど知られておらず、周縁的な現象だった。パレスチナBDS全国委員会によると、この運動は、アパルトヘイト(人種隔離政策)下の南アフリカ共和国に対する経済戦略を模倣し、イスラエルを六日戦争(1967年の紛争、第3次アラブ・イスラエル戦争とも呼ばれる)以前の国境線に戻し、アラブ系イスラエル人の権利を拡大し、ヨルダン川西岸地区の分離壁を取り壊す方向へ追い込もうとしている。

 2018年、この運動は標的を絞った抗議行動や、関西を拠点とする2つのグループ、パレスチナの平和を考える会とパレスチナ情報センターの出現を通じて、大阪と京都に足場を築き始めた。

2024年1月13日、ガザ停戦を求める新宿駅での抗議デモの静止画。Xから、 https://twitter.com/kojiskojis/status/1746047965587017975

 BDS活動家たちは、書面や小規模なデモを活用し、イスラエル製品の販売を中止するよう百貨店に働きかけたり、イスラエル関係者のゲストの受け入れを取りやめるよう、主催者に働きかけることに成功してきた。しかしながら、2018年にはBDS活動家の抗議にもかかわらず、川崎でイスラエル防衛博覧会(ISDEF)が開催された。このことは、研究者のゼルサー=ラヴィッドとエブロンが2021年の論文で説明しているように、日本の一部の企業が、(ISDEFの中止があったとしたら)収益に大きな打撃を与えないことを条件に、イスラエルの製品やイスラエル人の参加を取りやめることで抗議を回避する用意があることを浮き彫りにしている。

 紛争が続き、ガザの人道状況が悪化している状況下で、日本におけるBDS運動は世論の支持を集めている。11月の時点で、雑誌「外交」の記事はこう述べている。「日本の世論は即時停戦に傾いており、政府がイスラエルとパレスチナの間で慎重なバランスを取っていることへの批判が高まっている」と。

 日本のメディアにおけるイスラエルへの非難の高まりは、イスラエルやイスラエルと関係のある日本企業に対する草の根のデモと同時に起きている。これとは対照的に、安倍晋三政権の元幹部や、中東研究者であり、最近結成された日本保守党の積極的な発言者である飯山陽氏など、政治的右派からは、イスラエル支持の声も上がっている。

 しかし、日本の政治家や学者によるイスラエル支持は少数派であり、外務省は、声明や国連での投票、さらにはソーシャルメディアへの投稿においてさえ、紛争に関して複雑なシグナルを発している。イスラエルに対する相反する姿勢を示す例として、12月にイスラエル大使館で行われたハヌカのイベントに出席した外務省職員によるX(旧ツイッター)への不可解な投稿を挙げることができる。彼の投稿には「#ガザ」と「#パレスチナ」のハッシュタグが付けられていた。その一方で、10月7日の外務省の最初の声明にはこうあった: 「日本は遺族に哀悼の意を表し、負傷者に心からのお見舞いを申し上げる。日本は、さらなる被害や死傷者を避けるため、すべての当事者が最大限の自制を行うよう求める。」

2023年12月13日、駐日イスラエル大使公邸でハヌカ・キャンドルに火を灯す深澤陽一外務大臣政務官のXへの投稿のキャプチャー。投稿には#ガザと#パレスチナのハッシュタグが付けられている。

 声明には具体性がなく、G7の声明(日本はカナダと同様に署名しなかった)に見られるイスラエルの自衛権に対する全面的な支持もないため、日本の親イスラエルの声は動揺している。「エルサレム・ポスト」紙の2月10日付の記事で、安倍首相の元側近、谷口智彦氏は、このイスラエルの日刊紙にこう語っている: 「ハマスによるテロ攻撃後の日本政府の初期対応は、実際ひどいものだった」。

 その後、外務省は10月11日にイスラエルの「国際法に従って自国と自国民を防衛する権利」を支持する声明を発表したが、日本がイスラエルと中東に対して不透明な外交政策をとったのは、これが最初でも最後でもないだろう。

 外務省の立場の不透明さにもかかわらず、イスラエルと日本はここ数十年、疑いなく緊密化してきた。

 故・安倍晋三元首相はイスラエルと日本の関係修復の仲介に尽力し、イスラエルが技術に重点を置くことを通商の機会であると同時に、ますます積極的になる日本の安全保障姿勢を育むパートナーシップであると認識した。2014年、イスラエルは日本初の産業研究開発協定パートナーとなり、二国間貿易は2018年に35億米ドルに達した。日本とイスラエルとの緊密な関係の戦略的性質を反映して、両国は2017年にサイバー防衛協定に調印した。

2024年3月11日、国立西洋美術館内で行われた「未来はここに眠るのか」イベントでの抗議活動の写真。抗議者たちは、美術館のスポンサーである川崎重工業に対し、イスラエルとの取引停止を要求した。警察が介入し、デモは終了した。写真:Keisuke Tanigawa https://www.timeout.jp/tokyo/ja/news/nmwa-stopgenocide-031124

 日本企業がイスラエルへの投資を国内的・国際的に高すぎるコストで行っていると認識すれば、日本におけるイスラエルの経済的利益を標的にした活動が続くことには、大きな影響を及ぼす可能性がある。2月10日付のエルサレム・ポストの記事によれば、イスラエルのハイテク産業への投資の12.8%は日本からのものと推定されている。イスラエルに対する草の根の反感が高まっていることのさらなる証拠に、横浜やその他の主要都市を含む日本各地の地方議会が、即時停戦を求める決議を全会一致で可決した。これらの決議は、岸田内閣や外務省の立場と一般市民との間のギャップが拡大していることを物語っている。

 世界で最も経済的、軍事的に強力な自由民主主義国家の多くは、ハマスから自衛するイスラエルの権利を支持するという統一的なメッセージを伝えようとしてきた。しかしながら、その支持にも亀裂が見えてきた。アメリカでさえ、国務省職員が2023年11月の書簡でバイデン政権のイスラエル支持を辛辣に批判している。

 日本においても、岸田内閣と外務省は一貫して揺るぎないイスラエル支持を強調しようとしてきたが、さまざまな局面で親イスラエル派と親パレスチナ派の双方から批判を浴びた。イスラエル政府による、UNRWA職員が10月7日のテロに関与したとの疑惑を受け、日本が1月に国連パレスチナ救済事業機関(UNRWA)への資金拠出を一時停止する決定を下したことに、後者は怒りを露わにした。しかし、複数の報道によれば、日本は資金援助の再開を検討しており、多くの親イスラエル派のネット・コメント投稿者を怒らせている。

 外務省のイスラエルに対する曖昧な支持は、実はこれまでの政策と矛盾しているわけではない。日本の中東に対するアプローチは長い間、実利的なものだった。学者ラケル・シャウルが2004年に「日本とイスラエル」と題したエッセイで書いているように、日本は長い間、石油へのアクセスを優先し、この地域におけるアメリカの利益との整合性は二次的な関心事であった。日本の中東に対する全体的なアプローチはリスク回避的であり、安倍政権がイスラエルとの関係を強化しようとしていたとアナリストが推測した理由のひとつである。

 イスラエルに対する一般的な反発と、岸田内閣と外務省が提供した慎重な支持は、ハマスとイスラエルの紛争に対する日本の個人的・組織的な反応が、現在の出来事から反映されているよりも、はるかに根深いものであることをはっきりと示している。憂慮すべきことに、日本の主要メディアにおける紛争に関する論評は、危険なユダヤ禍を正当化する危険性がある。

 特に懸念されるのは、ホロコーストの(誤った)引用と、イスラエル批判におけるユダヤ人という集団の蔑視である。その好例が11月10日付の朝日新聞1面の社説で、ナチス・ドイツによる1938年の大虐殺「水晶の夜」の記念日を振り返り、「被害者でさえ加害者になりうる」と宣言している。社説は、イスラエル国防軍がガザで続けている「鉄の剣」作戦についてこう問いかけている: 「ユダヤ人は、筆舌に尽くしがたい苦しみを経験したにもかかわらず、負の歴史を繰り返すつもりなのだろうか?」

 1月11日に朝日新聞が「ガザ紛争報道の特徴は偽情報」という見出し記事を掲載したとき、日本語メディアにおける偽情報についてはまったく触れていなかった。

 さらに印象的だったのは、今年1月7日のTBS『サンデーモーニング』のニュース番組で流されたグラフィックである。TBSのアナウンサーは、ガザの人道状況の悪化について、CGアニメで描かれたガザ国境の壁の前に立ち、ガザが「青空監獄と呼ばれている」と視聴者に伝えた。彼女は続けた: 「しかし、この壁を作ったイスラエルは、かつては逆の立場にあったのです」と続け、CGで作られた国境の壁は、アウシュビッツの壁の一部へと姿を変えた。

TBSの『サンデーモーニング』のアナウンサーが、ホロコーストと比較しながら、現在進行中のハマスとイスラエルの対立について論じている。

 イスラエル政府とイスラエル国防軍の行動に対してユダヤ人が集団的責任を負っているとほのめかすのは、反ユダヤ的であるだけでなく、現実に何の根拠もない。イスラエルのユダヤ人や離散しているユダヤ人の多くは、イスラエル政府に明らかに怒っている。実際、毎日新聞とNHKは、広島市議会が自らの歴史を振り返り、公に停戦を呼びかけることの重要性を理解するよう求めている、ユダヤ人大学院生と広島の「広島パレスチナ祈念共同体」を紹介している。紛争やユダヤ人という集団に関する偽情報の拡散は、1980年代から1990年代にかけてユダヤ人に対する人種差別的なステレオタイプを蔓延させた、反ユダヤ陰謀論を唱える低俗な本である「ユダヤ・ブック」という、厄介な波の復活を招く危険性がある。

週刊文春』3月7日号に掲載された町山智浩のコラムに添えられた、澤井健によるヒトラーのイラスト。画像の中の日本語の文章はこうだ:「今ごろ、ガザ地区上空で、大笑いしているヨ」。町山氏は、スーパーボールの最中に放映された、2023年10月7日に連れ去られ、今もハマスに拘束されている人質についての広告に異議を唱えた。

 偽情報の増加にせよ、イスラエルと関係のある日本企業に対する抗議行動の継続にせよ、紙面やネット上、そして街頭でのイスラエルに対する怨嗟の声は一向に収まる気配がない。はっきりしているのは、こうしたイスラエル糾弾が長引けば長引くほど、日本の財界や政界の一部からの、イスラエルへの支援が危うくなる可能性が高まるということだ。

ディラン・オブライエン氏はカリフォルニア大学サンディエゴ校の文化人類学博士候補生。日本におけるユダヤ人とユダヤ教の表象が、日本に住むユダヤ人とどのように関わっているかを研究している。

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