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家族の話


今年の春にKと石垣島に行った時の話。


カヤックに乗ってマングローブの森を散策することになり、個人の方が夫婦で運営されている小さなツアーに参加した。

その日は僕らの他に一組、親子連れが一緒に来ていた。
40代くらいのお父さんと小学生の息子さん兄弟二人。
僕ら2人とその親子と合わせて5人で、カヌーに乗ってマングローブ林を探検することとなった。

その親子は何度も石垣島に来ているらしく、シュノーケリングや釣りなど、色んなアクティビティを連日行っているようだった。一方でお母さんはというと、リゾートホテルでゆっくりしているらしい。
子どもたちの特に弟さんの方はかなり生物に詳しくて、マングローブ林を回りながら、小さな生き物を次々と発見していた。お父さんも子どもたちと一緒になって生き物探しに夢中になっていた。

上流をずっと遡ったところ、マングローブ林の奥の方で、親子は沼の中からレア物の巨大シジミを発見した。Kがそれを羨ましがり、僕らも負けじと巨大シジミを探した。しかし結局、シジミは見つからなかった。
お父さんは僕らを不憫に思ったのか、大きなシジミを手に持たせてくれて、まるで僕らが見つけたように「取ったぞ!」的な写真を撮らせてくれた。Kはすごく喜んで、撮影の後僕はお礼を言ってシジミを親子に返した。


その日の夜だったか、Kがヤシガニを見つけたいと言い出して、深夜に海辺へとドライブに繰り出した。(僕はあまり乗り気では無かったのだけど…。)

夜の海は漆黒で何も見えず、ものすごく恐ろしい感じがした。
海辺の近くの住宅街や田畑、小学校の周りをぐるぐると歩いてヤシガニをひたすら探したけれど、全然見つからなかった。
Kはとても期待していたらしく、残念な結果にすごく落ち込んでしまった。その様子を見ると僕も何とか見つけてあげたくなったが、時期が悪かったとか適当なことを言って、来年また来ようとKを慰めて手ぶらで引き返すことにした。

ヤシガニ探しからの帰り道、リゾートホテルの近くを車で通った。
ホテルエリアは巨大で、夜だというのに煌びやかなイルミネーションが灯っていた。

「あの親子はここにおるんかもな」

Kがぽつりと言った。
昼のカヤックの親子のことだった。

「そうかもな」

僕が答える。

「お金持ちそうやったから絶対ここにおるわ」

「僕らの安いホテルとは違うんや」

「ええホテル泊まれて子どもは贅沢やわ」

「いっぱい遊べて羨ましいわ」

そんなことをKはつらつらと言い始めた。
運転しながら、僕は何故かムカついてきた。


「あの家族は僕らと違って幸せや」

Kがそう言ったような気がした。


「なんも幸せと違うわ!!!!」

僕はアクセルを踏み込んで叫んだ。


「あんなもんはニセモノや」

「社会のレールに乗って結婚してるだけ」

「ただ家族のフリをしてるだけ」

「誰かの人生を訳も分からずなぞってるだけ」

「自分で選んで自分で作ったもんと違う」

「その程度のことロボットでも出来るわ」

「中身はぶっ壊れてボロボロかもしらんのに」

「外面を無意味に取り繕っとるんや」

「僕らの方が誰の真似もせずにユニークな関係性を築けてるんやからずっと価値があるわ」

「僕らは誰にも何にも保証もされずに一緒におるんやから」

「この時間だってかけがえがないんや」

「あんなどこにでもおるつまらん人間には絶対に理解できない世界を僕らは持っとるんや」

「だからあの家族より僕らの方が5000兆倍幸せなんや」

「僕はなんも羨ましないわ」

「あんたはしょうもないロボットになりたいんか!?」

「他人の幸せを模倣して人生を無駄にしたいんか!?」

一人で僕は意味不明な言葉を言い続けた。
こんなふうに僕が理不尽に捲し立てるのはいつものことなので、Kは一切トーンを変えずに「そうか」「そうけ」とか言って興味無さ気に僕の言葉を流して聞いていた。
僕の熱い愛の言葉は全くKに響いていなかったが、一通り言い終わると僕は満足し、Kが卑下する安いホテルへと、夜道の中車を走らせた。




※この記事は、2022年に、りゅうちぇるさんが離婚されたというニュースを聞いて、書いた話です。家族の幸せについて、僕なりに考えていた中での思い出話でした。りゅうちぇるさんのご冥福をお祈りいたします。

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