『さらば、わが愛 霸王别姬』4K版

映画公開30年、レスリー・チャン(張國榮)没後20年の今年、陳凱歌監督の『さらば、わが愛 霸王别姬』が4K版になって公開された。

Blu-rayディスクの発売やAmazon Primeなど各種配信サイトでの配信も始まった。
https://cinemakadokawa.jp/hbk4k/onair.html

以下X(旧Twitter)に書いたものに若干加筆した。

『さらば、わが愛 覇王別姫』で、妓楼を訪れた段小楼は“菊仙姑娘”に会いに来たと言う。小楼が妓楼を出た彼女を程蝶衣に紹介する時は“菊仙小姐”と呼ぶ。彼女と結婚すると宣言した小楼、彼女に直接呼びかける時は“菊仙”。翻訳では表しにくい呼称の使い分けだ。

菊仙と結婚すると宣言した小楼、程蝶衣に向かって彼女を“嫂子”(兄嫁)と呼ぶようにと言う。小楼は蝶衣にとって“师哥”(兄弟子)だから。それを受けて菊仙は蝶衣に“师弟”と呼びかける。
中国語では人間関係に相応しい呼称で相手を呼ぶことがよくわかる。

蝶衣は菊仙のことを“嫂子”(兄嫁)とは呼ばない。“师哥”(兄弟子)小楼と菊仙の結婚に反対だからだ。

映画はもちろん日本語字幕で十分理解できるし、楽しめるが、原文の台詞のこういう細かいところを味わうのが、外国語学習の喜びだと思う。

映画『さらば、わが愛 霸王别姬』の字幕翻訳は戸田奈津子氏である。映画の字幕は中国語の原版シナリオではなく、英語版シナリオから日本語に訳されていることがわかる。

映画の4K版が出たのだから、水野衛子訳『中華電影的中国語さらば、わが愛覇王別姫 : 中国語・日本語対訳シナリオ集』も復刊して欲しい。
https://iss.ndl.go.jp/books/R100000001-I052584834-00
映画の字幕は英語版シナリオからの訳だが、この本は中国語原版からの翻訳で、しかも中国語の原文と日本語翻訳を合わせて見られる。

『さらば、わが愛 覇王別姫』の脚本を書いた李碧華が小説版を出している。日本で映画公開された当時、小説版の翻訳も出た。中国語から英語に訳されたものを、更に日本語に訳してある。映画の4K版に合わせて、こちらも復刊して欲しい。映画とは結末が異なる。
田中昌太郎訳『さらば、わが愛 : 覇王別姫』
https://iss.ndl.go.jp/books/R100000002-I000002295192-00

レスリー・チャン(張國榮)が歌う『さらば、わが愛 霸王别姬』の主題歌 『當愛已成往事』はApple MusicやSpotifyで配信されている。


オタクな中国語教員。日本語母語話者向けの中国語初級教材をPDFとEPUBで作っています。