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1枚のチラシと働くこと

「注文を確定する」をクリックすると、翌日、早いものでは当日に届けてくれるAmazon。

その品揃えの豊富さ、便利さ、迅速性ゆえ、Amazonジャパンの売上高は伸び続け、2022年度は約3.2兆円(前期比25.9%増)と、日本一のセブン-イレブン・ジャパン(約5.1兆円)に次ぐ存在になっています。

Amazonはなぜ売上を伸ばし続けるのか


20~69歳男女1000人を対象とした、あるインターネット調査によると、Amazonと楽天市場どちらも使ったことがある人は約7割に上り、そのうち半数弱がAmazonのほうをよく利用しています。Amazonが優れていると思う回答は多いほうから、品揃え、価格、配送料、配送方法、セール・キャンペーンと続きます(ナイル株式会社「Appliv TOPICS」調査)。


また、米国のEC利用者1000人を対象に行ったインターネット調査では、Amazonを利用する理由を5つまで挙げてもらっています(Digital Commerce 360/Bizrate Insights調査)。すると、66%の消費者が「必要なものがほとんど見つかる」と答え、「プライム会員になれば、ほとんどの商品の送料が無料になるから」(56%)、「必要なものが素早く見つかる」(51%)と続きました。

ジェフ・ベゾスが創業時に紙ナプキンに書いたと言われる「フライホイール効果」をご存じでしょうか。低コスト構造でビジネスを始めることで、商品の低価格化を実現し、顧客の満足度を高めます(顧客体験)。満足な買物ができた顧客は再び買物をするので、全体として取引量が増えます。すると参入する売り手が増えるので、品揃えが充実します。結果的に、顧客満足度はさらに高まることになります。あとは「取引増→売り手増→品揃え増→顧客体験向上」が弾み車のように回り続けるというわけです。


Amazonは日本最大の倉庫業者でもある


この弾み車を回し続けるために、欠かせないものがあります。それが「物流」です。

冒頭の写真は、Amazonの物流を支えるフルフィルメントセンター新設にあたって千葉市周辺に配布された倉庫内作業スタッフ募集チラシ。時給は1,250円。先だって10月に改訂された千葉県の最低賃金1,026円(従来の984円から42円引上げ)より224円高く、深夜割増賃金となると1,562円と1,500円を超えます。他の場所でもAmazonの時給は相場より上にあります。

Amazonの倉庫では、モバイルロボット「プロテウス」を導入し、商品を収めている棚ごと移動させて作業効率を高めています。一般的には作業者が目的の商品が納めてある棚の前まで移動しますが、Amazon倉庫の場合は、商品を格納している棚をロボットで動かすことで、ピッキングの作業効率を上げているわけです。つまり、ピッキングする棚のほうが作業者に近づいてきます。このような自動化により、Amazonの倉庫は多種多様な在庫を短時間で出荷することができるのです。

しかし、その取扱量は増え続け、現在のところ完全無人化はできていません。日本には現在、物流拠点「フルフィルメントセンター」が27カ所、配送拠点「デリバリセンター」が11カ所あります。その総面積は約150万平方メートルと予測され、同業の楽天を大きく引き離すばかりか、三井倉庫、三菱倉庫といった倉庫専業大手をもしのぐと言われています。

そして、一つひとつが巨大です。たとえば、2023年8月に新設された「千葉みなとフルフィルメントセンター」の延べ床面積は12万平方メートルと、東京ドーム約2.5個分の広さ。4階建てで、1階は入荷・出荷エリア、2〜4階には大きな商品保管機能があり、商品の保管可能容量は1,700万個以上。毎日数百人の人たちが働き、約2,000人を雇用するといいます。

人は何のために働くのでしょうか?


では、Amazonの倉庫で働く人たちの評判はどうでしょうか。2chでは一時期、「Amazon倉庫は地獄」と話題になりましたが、ここではあるクチコミサイトから10の「きつい理由」を紹介します。

きつい理由① 作業効率や生産性を常に求められる
きつい理由② 私語厳禁
きつい理由③ 細かいルールが多すぎる
きつい理由④ ひたすら単純作業
きつい理由⑤ 情報管理が厳しい
きつい理由⑥ 顧客第一主義のためバイトには厳しい
きつい理由⑦ セキュリティが厳重
きつい理由⑧ 倉庫内のため暑くて寒い
きつい理由⑨ 倉庫内を歩き回るため体力が必要
きつい理由⑩ 急に次の日が休みだと告げられる

こうして眺めると、Amazon倉庫で求めているのは“ロボットのような働き手”ということです。事実、米国の最新倉庫では5000台ものロボットが絶えず動いています。さらには、ヒト型ロボットを使う実験も研究拠点で始められています。Amazon倉庫から人の姿が消えるのも、そう遠い将来ではないかもしれません。

次は、同クチコミサイトからAmazon倉庫で働いて「良い点」5つを紹介します。

良い点① 賃金が比較的高い
良い点② 採用されやすく単発でも働ける
良い点③ 軽い商品が多めで扱いやすいため女性も働ける
良い点④ 髪色が自由
良い点⑤ 夜勤のほうが楽

さて、人が働く目的は何でしょうか。

令和4年度「国民生活に関する世論調査」によると、「お金を得るために働く」と答えた者の割合が63.3%、「社会の一員として、務めを果たすために働く」と答えた者の割合が11.0%、「自分の才能や能力を発揮するために働く」と答えた者の割合が6.7%、「生きがいをみつけるために働く」と答えた者の割合が14.1%となっています。6割以上の人たちがお金を得るために働いていることはここからも明らかですが、それだけでしょうか。


上図は、アメリカの心理学者、アブラハム・ハロルド・マズローが提唱した「欲求のピラミッド(マズローの欲求5段階説)」。あなたは働くことによって、どの段階までの欲求を満たしているでしょうか。それが上位であるほどに、人は幸せを感じるのではないでしょうか。

新著『店は客のためにあり店員とともに栄え店主とともに滅びる』の主人公、倉本長治はこんな言葉を遺しています。

生きるために食べよう
商うために儲けよう
では、何のために生き
何のために商うのか

以上、自宅のポストに入っていた一枚のチラシを眺めながら、考えたことをシェアさせていただきました。


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