人間にやさしい利用規約を作った話

Webサービスには利用規約がつきものですが、利用規約が読みやすいものであることは本当に少ないです。

例えば note の利用規約 を一読したときに、どのようなことが書かれているかを直感的に理解できる人は少ないと思います。

とはいえ利用規約には大切なことが書かれています。例えば note の利用規約のこの部分などは事前に知っておくべきことでしょう。

note総則規約
13.責任
13.2(中略)いかなる場合においても当社が利用者に対して負う責任の総額は、当社に対しお支払いいただいた本サービスにおけるプラットフォーム利用料の過去1年間における合計累積額または10,000円のいずれか低い金額を上限とします。

https://note.com/terms

13.2の条項を素直に解釈するならば、note を利用した詐欺行為などに巻き込まれた場合、note としては上限10,000円までしか補償しないといった風に読み解けます。

また、下記の15条の内容と合わせて考えるならば、なんらかの事情で自身の note のログインパスワードが流出してしまい、なりすましによって多額の決済がなされてしまったとしても、その場合の補償も10,000円までとなってしまいそうです。(もちろん、このような場合は note 社による救済措置があるとは思います)

15. 利用者ID等
15.2 アカウント情報の管理の不十分、使用上の過誤、第三者の使用等による損害の責任は利用者が負うものとし、当社は一切の責任を負いません。

https://note.com/terms

このような内容を理解した上でサービスを使う分には良いと思いますが、通常はこのような内容を理解していないでしょうし、いざトラブルになった際に泣きをみるのは利用者側で、運営側は「利用規約に書いてある」の一点張りで逃げることが可能です。

この現実は、あまり良くないかなと思っています。

※ note の利用規約を引用したのは一番身近だったからで、他意はありません。法律文書のテイストで書かれた利用規約を読み解くのは大変だよ、、、の一例としてあげたのみです。

運営側優位の利用規約がまかり通る現実について

Webサービスの利用規約というものはとても不思議です。なぜなら、多くの場合に利用者が「目にすることも無い」にも関わらず運営者優位に作られており、利用者側が不利になるような規約ばかりだからです。

その上、読むのが大変というのは利用者にとっては詐欺に近しいものだと思っています。

また、全員が一律に同じ規約を守ることを求められている上、規約の変更依頼は当然に受け入れられません。条項の読み合わせや認識合わせに応じてくれることも少ないでしょう。

とはいえなぜこのような形になるかといえば、Webサービスは「不特定多数」の人間が利用することが前提になっているからです。

そのため、現実的に利用者全員と利用規約の読み合わせを行うことは不可能に近く、ゆえに一律で同じ規約を適用することが慣例となっています。

[過去の反省文]
私は色々な会社で新しいサービスを作るにあたり、利用規約の作成にもそれなりに関わってきました。その時の思考の多くは「自社の責任範囲の最小化」に偏っていたように思えます。事業として運営しているためリスクを減らすのは当然のことなのですが、そこにユーザー視点を取り入れられなかったのは問題だったなと思っています。

利用規約はなぜ読みづらいのか

利用規約の文言は、法律文書に馴染みのある人以外はとても読みづらいものになっていることが通常です。それにはふたつの事情があります。

1. リスクを回避したいという運営側の意思

なぜ読みづらいものになるかというと、規約に抜け漏れがないようにしたいからです。すなわち、「想定外の行為によって運営者に損害が及ぶことを避けたい」という思想がベースにあります。それらを貫き通すと、いわゆる利用規約のような文章になってしまいます。

2. 利用規約の作成過程の問題

利用規約を作成するのは、運営企業の顧問弁護士であることが大半です。顧問弁護士に利用規約の作成を依頼し、彼らから受け取った利用規約を多くの場合はそのまま利用します。

つまりは弁護士が書いた法律文書がそのまま掲載されている状況です。

普段UXについて語っている人たちのプロダクトの多くが「ユーザーが読むことに配慮していない利用規約」になっているというのは、とても皮肉な話だなと思っています。(これは私が仕事で関わるプロダクトにも当てはまるので、ブーメランではありますが、、、)


これらの2点によって読みづらい利用規約が生まれがちな現状ですが、抜け漏れのない規約で利用者を縛る必要が本当にあるのでしょうか?

もちろん、リスクを回避する意味で利用規約を堅く作る必要があることは理解していますが、Webサービスでそんなに大きな問題になることもないと思うのです。

利用規約はどうあるべきか

どの程度リスクを取るかについては各社の都合があるとは思いますが、一般的な人間が読みやすい文章であることは当然に求められると思います。

とすると、下記のふた通りのアプローチがあります。

  • 利用規約は法律文書のような体裁で作るが、それに対して解説をつける

  • すべての人が読みやすい文章で利用規約を作る

前者のアプローチの例としては、Wixの利用規約があげられます。Wixの利用規約では条項ごとに「要点」という形で内容を解説しており、法律文書に馴染みのない人は要点だけを読めば済むようになっています。

後者のアプローチとしては、Discordの利用規約が良い例かと思います。Discordらしいポップな感じですね。(とはいえ、訴訟社会のアメリカで生き残れるよう、内容自体はとても濃いものになっていますが)

今回はどのような利用規約を作ったか

今回は、下記の観点を意識して利用規約を作りました。

ユーザーにとっての直接の損害は通常発生し得ないため、その部分のリスクについては運営側で許容する

今回作成したサービスは無料で提供されており、通常の利用においてユーザーに直接の損害が発生することはありません。そのため、リスク回避のための規約は最低限にするようにしました。

また、サービスを通じてコンピューターウィルスに感染した、などや、誹謗中傷を書き込まれた、などが間接的な損害として想定されますが、これらは禁止事項として定めることによって防ぐようにしています。

法律文書に馴染みのない人にとっても理解しやすい日本語で書く

難しい法律文書の体裁で書く方が抜け漏れは防ぎやすいのですが、今回は優しい日本語で書くことを優先させました。その部分のリスクは許容できるとの判断です。

規約に解釈の幅を持たせた

「社会人としての良識ある判断」といった判断基準を規約に入れたりしたのは一例ですが、抜け漏れとのバランスをとるために、解釈の幅が広い規約にしています。これはどちらかといえば運営側優位に働く事項なのですが(運営側の判断によって投稿の削除等が行いやすくなる)、サービス運営とのバランスを取るためにはやむなしと判断しました。


今回作った規約はこちらです。
この規約が良い悪いではなく、利用規約というものを考えるひとつのきっかけになれば幸いです。


おわりに

たかが利用規約といえど、誰かが読むことを前提として書かれるべきだとは当然に思います。そして、運営者と利用者がフェアになるような規約にしておくことも当然に求められると思っています。

利用規約は各社それぞれの方針があるため一概に良い悪いとはいえませんが、利用規約を読むことで各社のスタンスが明確に浮き彫りになります。その観点からは、利用規約はとても楽しいコンテンツだと思っています。(冒頭にあげた note の利用規約はクリエイター優位な感じになっていて、私としては良い印象を持っています)

利用規約についてもっと知りたい人は、雨宮先生が書かれたこちらの本を読まれても良いかなと思います。おわり。


P.S. 暖かい季節になってきたので飲みにいきましょう!


まいにちのご飯代として、よろしくお願いします。