隠居済み無職がタイミーさんになってみた

Twitterで煽られたので、隠居済み無職にも関わらずタイミーさんになってみました。このエントリはその記録と感想です。

[中の人について]
昔は大企業とかスタートアップとかでプロダクトマネージャーとか事業開発とか色々やってた人。働く理由が特になくなったので、ほぼ隠居しながらたまに人のお手伝いをして細々と生計を立てています。都内の話です。

経緯

よく行く飲食店でも「タイミーさん」を見かけることも増えてきたので一回くらいやってみたいと思いつつ、知らない人に会ったり知らない職場で働くことのストレスから避けていたところ、Twitterで知人に煽られたのでその勢いでタイミーに登録し、即日働きに出かけたのでした。

働くまでの流れ

とりあえずタイミーのアプリをインストールして本人確認のための情報を登録したところ、数十分も経たずに働ける状態になりました。本人確認の流れはとても早く、ユーザーの温度感を下げない体験設計で良いなと思いました。

その後、アプリ内で仕事探してみると、半分くらいが「経験者のみ」といった募集だったため、未経験でもOKかつ家から近かった100円均一ショップのレジ打ちの募集に応募してみました。

持ち物や必要なスキルのチェックがあり、元気も笑顔もコミュニケーション力も特にないけどまあいいかなと思って応募が完了しました。

その後はお店の方から連絡があるとのことでしたが、実際には家を出る時間になっても連絡は来ず、不安な気持ちを抱えながらお店に向かったのでした。

[プロダクトマネージャー目線として]
タイミーのアプリはリリース当初に何回か触っており、そのタイミングでは働ける場所がほとんどなかったため即アプリを消したという過去があったのですが、現在は家の近所だけでも当日働ける場所が10件程度あり、その成長にびっくりしたのでした。

お店側・働き手の双方を集めていくプロダクトのグロースはとても難しいことは何度も経験しているので、そこをやりきった(と言っても良い知名度になったと思っています)のは素直にすごいなあと思いました。

アプリケーションの体験としても大きな違和感はなく、ちゃんと作り込んでいるなあという印象でした。

仕事の準備

業務開始時刻の10分ほど前にお店につき、働いている人に「タイミーから来ました!」の合言葉を伝えたところ、バックヤードに案内されて少しだけ仕事の説明を受けました。時間にして20秒くらいでしょうか。

バックヤードのロッカーに荷物を入れ、着替え(といってもエプロンをつけるだけ)たのちタイミーのチェックイン(タイミーアプリでお店のQRコードを読み込むことで打刻の代わりになる)を行って準備完了といった感じでした。

このお店では「タイミーさん用のロッカー」という感じでロッカーが準備されており(ロッカーのプレートも「タイミー」でした)、タイミーで働く人がいるのが前提のオペレーションのように思えました。(チェックイン用のQRコードもロッカーに貼られていました)

また、バックヤードに置かれていたアルバイトのシフト表にも「タイミー」と書かれており、足りない人員はタイミーで補充していくスタイルが確立されているようでした。

[雑観]
この時点では特に名前すら聞かれませんでした。むしろ顔すら見られていないような気もしました。ああこれが「タイミーさん」か、といった気持ちになりつつ、何の期待もされない仕事も久しぶりだなあと思ったのでした。

仕事開始!

募集内容には「レジ打ち」とあったのですが、実際には「セルフレジの監視」という仕事でした。スーパーとかのセルフレジの近くにいる監視係みたいなやつです。

そのため「セルフレジの使い方はわかる?」と聞かれたくらいでそれ以上の仕事の説明はなく、「とりあえず困っている人がいたら助けてあげてくれ」「わからないことがあったら呼び出しボタンを押してくれ」と伝えられ、業務が始まりました。

仕事内容的には特に難しいこともなく、この説明だけで十分でした。「セルフレジの使い方がわからない人なんているのかな」「この仕事に何かの意味はあるのかな」と思っていたものの、体感では5人に1人くらいはなんらかの手助けが必要そうでした。

その内訳としては、ご老人6割・中年2割・若者1割・外国人1割といった具合でしょうか。

特に外国人の方にとってはセルフレジのハードルが高く(レジ画面に書かれている日本語が読めないため、操作がそもそもできない)、これはどこの国でも課題になりそうだなと感じました。

数分で仕事に慣れた後は暇との戦いだったものの、他のお店の人との会話も殆どなく、しょうがないのでお店の商品を眺めたり、陳列を整えたりして頑張って時間を潰しに潰して15時〜20時の勤務は終わったのでした。

[雑観]
そういえば最後まで名前を呼ばれることすらありませんでした。タイミーさんはそのお店にとっては良くも悪くも空気なんだろうなと思いました。

お店の人の自己紹介も特になく、仕事の説明も特になく、それゆえ誰でも出来る仕事を代わりにやってくれる「タイミーさん」を求めているんだなと思ったりもしました。


ここからはタイミーというよりも仕事全般についての話になります。


売り上げに繋がらない仕事に意味はあるのか

セルフレジの監視の仕事をしながら考えていたのは、「売り上げに繋がらない仕事に意味はあるのか」といった問いでした。正直なところただ突っ立ってる時間が9割で、売上増に寄与することはありませんでした。

そして、それだからといって誰かに咎められることもありませんでした

これは個人的には新鮮で、というのも自分が過去に行ってきた仕事の多くは「売り上げを作ること」や「売り上げを作る仕組みを作ること」であったため、そこと無縁の世界にいるというのが不思議な感覚だったからです。

対価の分だけバリューを出せているかとか、そんな「当たり前だと思っていた」ことを考えることもなく、ただただ時間を過ごしていることを否定も肯定もされない時間は案外悪くないのかなと思ったりしました。

もっといえば、レジを前にして実際に困っている人を手助けしているが故に何かしらの貢献欲が満たされ売り上げを増やすことになんら貢献していないにも関わらず、結果的にはちょっとした満足感さえありました。

直接的な価値提供と幸福感

売り上げを作るという仕事には、ひとりで出来ることに限界があります。それゆえに「複数人をマネジメント」したり、「ソフトウェア」の力を利用してレバレッジを効かせるしかないのですが、そのことが直接的な価値提供から私たちを遠ざけ、それゆえ仕事における満足感を得づらいという事実があります。

その中でもソフトウェアによって課題を解決していく仕事は直接的な価値提供からはとても遠いです。私たちが書くコードがその場で誰かの課題を解決するなんてことはまずなく、レビューされリリースされた結果、その機能が自分の知らない誰かに使われて、それでも「微妙な機能」といった反応を受けることや、「機能が使われない」といったこともザラにあります。

としたときにソフトウェア開発の多くの現場は直接的な価値提供からくる満足感とは無縁の世界であり、それゆえに「コードが綺麗に書けたこと」や「コードを書くこと自体が楽しい」といった「直接的な仕事の価値とは関係ない部分」に価値を置く人が多いというのが実情です。

他方で売り上げに繋がらない上に特に意味を感じられない仕事であったとしても、「直接的な価値提供」が出来るのであればそれはそれで幸福度は高いように思えました。

としたときに、売り上げを増やすためにレバレッジを効かすという行為の裏には、「幸福度」を犠牲にお金を得ているという本末転倒な状況があるんだなと感じました。


「面倒な仕事」であったり、「誰にでも出来る仕事」であったりを誰かに頼むことはホワイトカラーの仕事をしているとよくあることだと思います。

それはそれで成果は出るし、自分はちょっと楽になるしで良いことが多いように思えますが、それによって失ってしまう「幸福」についてはもっと考えても良かったよなと思ったタイミーさんでした。おわり。



P.S. あと何回かタイミーさんになろうかなあ。タイミーさんとして働いてほしいとかあればお気軽に。





まいにちのご飯代として、よろしくお願いします。