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短編小説

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記事一覧

【短編小説】ロボット掃除機『ルンバ』の日

【短編小説】ロボット掃除機『ルンバ』の日

 ズビビビビビ。たまに、ガッタン。ウィィィィィン、も聞こえてくる。
 あんまり広くない部屋の、床面を這うように進む丸い物体。それを、飽きもせず眺めている様は異様に見えるのかな。
 ロボット掃除機のルンちゃんは、うちに一年前に来た可愛い子だ。なんたってご飯をあげなくても自分で充電してくれるし、お部屋の中を一生懸命、でもゆっくり少しずつ走り回るのもいい。それにそのゆっくり具合と丸いフォルムが愛らしい。

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【短編小説】むち打ち治療の日

【短編小説】むち打ち治療の日

 どうも、昨日っから首が痛い。痛いっていうか、ヘンな感じ。違和感、だな。
「どうしたんです?ヘンな顔して」
 うーん、と首を捻ったりぐるぐる回したりしてたら、同僚に心配された。
「なんか、ヘンな感じがしてさ。違和感っつーか……あ、イっ!…てぇー」
「ええー、何したんですか。寝違えでもしました?」
「いや、寝違えじゃない、と思う、昨日っからだし。んー……ああ、そういや、昨日の夜、息子と一緒に柔道の稽

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【短編小説】いけばなの日

【短編小説】いけばなの日

 今日はわたしの6さいのたんじょう日なの。ようち園のころから、おたんじょう日にはお父さんとお母さんがおへやをたくさんかざってくれて、ケーキとごちそうがたくさんならんで、にぎやかにパーティをすることになってる。
 ふたりともとってもいそがしいけど、ゆかのおたんじょう日はとくべつよって。うれしくって、にこにこしてお母さんありがとう!って抱きつくと、お父さんは?ってかなしそうなおかおで言われちゃうから、

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【短編小説】ロゴマークの日

「マッキ、アディドス、ナイク、……へーこれもロゴマーク?」
「そうだよ、ちっさいこ抱っこしてるおかーさんだからイメージしやすいでしょ」
「解りやすく図案化したもの、だっけか」
「そう。このマーク持った人が妊婦さんって解りやすいけど、リアルすぎてグロいのは一般に受け入れられないだろうし、こんなかんじの可愛い絵柄になったんじゃないかな。あくまで私のイメージだけど」
「うん、いや、確かに、たまに断面図っ

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【短編小説】武士の日

【短編小説】武士の日

 キン!と弾く音は画面の中から。

 むかーしむかしの、お侍さんたちが活躍した頃を彷彿とさせるような、でもフィクションだというその映画は、フィクションだけどめちゃくちゃ人気だったもの。

 去年の間ずーっと長く映画館で上映してて、でもタイミングが合わなくて観に行けなくて、そのうちに別にいいやになった。そういうのよくあるよね。

 ある程度時間が経てばテレビでやるし、ネット配信だって始まる。

 そ

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【短編小説】なんもしない日

【短編小説】なんもしない日

 だらーっと四肢を投げ出して、天井を見上げて、ぼーっとした時間を過ごす。
 ベッドの上でごろごろしている様はまさに「なんもしない」だ。
 思考も、まぁ、多少こうやって考えてはいるけど、結構ぼんやりしてる。あ、虫がいた。後で外にだしてやろう。窓開いてるから自分で出てってくんねぇかな。
 仕事でミスして、落ち込んでる、といえばそうなのかも。
 一文字ミスっただけ。でもそのミスが、発注数の間違いに繋がっ

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【短編小説】オムレツの日

【短編小説】オムレツの日

 まぁるくて、とってもきれいなきいろ。フォークでちょっとつつくとふわんふわん。ホカホカのゆげは、出来たばっかりだっておしえてくれてる。うう、おいしそう~。
「食べていいよ」
「いただきまぁすっ!」
 おかーさんのひとことで、うずうずしてた手をえいってうごかした。
 とろとろふわふわのオムレツは、口のなかにいれてもやっぱりふわふわとろとろでとってもしあわせ。こんなにおいしいオムレツを作れるおかーさん

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【短編小説】チューインガムの日

【短編小説】チューインガムの日

 ぷくーっと膨らませて、パチンと弾ける薄い膜。
 何度も噛むうちに段々味は消えてきて、何で噛んでるんだろうって思い始めるけど、なんとなく惰性でそのままもぐもぐと口を動かしたままになってしまう。
 薄っすらと白からオレンジになりかけの空を教室の窓越しに見ながら、味のしない弾力をぐにぐにしてはぷくっと膨らませて。パチンと弾けてはもう一度を繰り返してたら、いつの間にか待ち人が来てたみたい。
「何してんの

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【短編小説】薬・裏

【短編小説】薬・裏

いとしくて
たいせつで

あいしているから
あいをあげたくて

きれいな花をみるたびにもっとと思う
きれいな花をさかせるには何が必要だろう

きっと気に入る肥料と
何を言う必要もないと注ぐ水
そこに織り交ぜる、愛という名の特別な薬

少しずつ変わる反応
まだ足りないみたいだ、もっと薬を増やさなくちゃ

アレ好きでしょ、見に行こう
コレ気になってるって言ってたよね

好きよ、でも今はいらないかな

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【短編小説】薬

【短編小説】薬

いとしくて
くるしくて

あいしてたくて
あいをてばなして

きれいな花をみるたびにつらくなる
きれいな花をさかせられなくてごめん

良かれと撒かれた肥料と
何も言われぬまに注がれた水
そこに混じる、愛という名の特別な薬(毒)

思う通りになれなくてごめん
だからお願いもうその薬(毒)をやめてほしいの

アレ好きでしょ、見に行こう
コレ気になってるって言ってたよね

好きよ、でも今はいらないかな

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【短編小説】思いの重さ

【短編小説】思いの重さ

いつも食べてたパン

当たり前になってたコーヒー

大事に大事に抱え持った色ちのカップを煽る

雨が降って延ばした予定

絶対その日って言ったのに

結局行けなかったんだよね

少しずつ増えてたインテリア

いつからか景色は変わらなくなった

お気に入りのペンギンがしょんぼりしてる

色ちのカップはどこに行ったんだっけ?

そうだ片方落として割れたんだった

行きたかった場所は違う建物になってた

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【短編小説】『頭の付箋紙(メモ)』(歌詞風オリジナル)

【短編小説】『頭の付箋紙(メモ)』(歌詞風オリジナル)

付箋紙オッケー?!
さあいくよ!

鳴り響くアラーム 手探りで止めて
眠い目擦って慌てて止める 起きたの偉すぎ
付箋紙の1番 完了のチェック

レンジに冷たいご飯を任せて
ポットがパチンてお湯のお知らせ
2番の朝食完璧じゃない?

なかなか慣れないスーツを着たら
鏡の前でコスメと格闘
上横下から要チェック
3番おしまいよしよし順調!

大好きな曲をお供にテンション上げつつ揺られてく
今日の付箋紙は

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初めて音声投稿をしてみます。

https://note.com/kitty_lucky_111/n/nc3e989f457cc
こちらの記事に書いた、短編小説を、朗読、というか、ボイスドラマ風に読んでみました。
今後も、他の短編小説を、朗読できたらと思っています。
読み上げるの、楽しいですね。

【短編小説】「私のこと好き?」

【短編小説】「私のこと好き?」

「私のこと好き?」

 何度も聞いてしまい、そのたびに言わなきゃよかったと後悔する言葉。
 思う通りの答えをもらえる事は殆どなくて、さらりと言われて終わってしまう。
「そりゃあね。じゃなきゃ結婚してないよ」
 そうなんでしょうね。
 でもね、そうじゃないの。
 『好き』という言葉を、あなたの口から言われたいの。
 『好きだよ』って、あなたの柔らかくて温かくて幸せなトーンで言われる言葉を、あなたが甘

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