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オールディーズの陽気な日々


50年代末から60年代にかけてのアメリカンポップスの陽気さにのめり込んで、〝セミの脱け殻〟状態になっている。ミンミン。

「Pretty little baby」 「mr.bassman」「down town」「save the last dance for me」「itsy bitsy teenie weenie yellow polkadot bikini」等々、いわゆるオールディーズなのだが、これを歌う。安物のクラシックギターで簡単なコードを刻みながら。歌詞を間違えようとアルペジオをとちろうと音程不安定だろうと気にせず、ひたすら曲の進行だけに入れ込む。するとシンプルなリズムやメロディの進展にくすぐられて身体が共鳴し、いつの間にか気分が上向く。現世を離脱してこの世から飛び立つような気持ちといったらいいだろうか。いやいやそんな深刻な話ではない。そのあたりのことをとってつけたように軽薄にいうと、歌う前の重たかった自分から飛び出してヒバリかトンビみたいに無責任な気持ちになって、青天井に開けたところをピーヒャラ滑空し始めるのである。この間、10分から20分。音楽の力のなんとわかりやすいことか。30分もあれば、世のしがらみから離陸して新型コロナのなんのと鬱陶しい気持ちを歌い飛ばすことができてしまう。

60年代のアメリカンポップスで現世を離脱する

離陸するのに選曲は重要である。50年代末から60年代のアメリカンポップスだったら、ただもう陽気でひたすら明るい。メジャーでもマイナーでも明るい。恋していても恋してなくても失恋しても二股かけられていても明るい。昼だって夜だって明るい。学校だって宿題を忘れていたってとにかく明るい。時代というものだろう。人間の黄金時代というべきか。Bobby gentlyの「ode to~」みたいにちょっと悲しげな歌もなくはないが、これはこれで渋いしかっこいいので、歌ってみて損はない。

この頃のアメリカというのは、見てきたわけではないが、オカネじゃぶじゃぶで前のめりで楽観的で、オバカなくらい余裕がある。こいつら60年以上も前から毎日ピザ食ってコーラ飲んではじけそうな女の子や男の子とドライブインシアターかなんかでハッピーエンドの映画を観て、埃ともカビ汚れとも無縁な小綺麗な家に帰ってアメリカンドリームを夢みながら羽毛布団にくるまって眠ってるだけだったんじゃないのかと思ってしまうぐらい、生きていくうえでの苦悩がない。深刻さが感じられない。悩みといったらせいぜい彼氏のシャツのカラーに他の女の口紅がついていたから絶対あやしいとか、私のボーイはどこに行ったのとか、彼女の恋の日記に僕の名前は書いてあるのだろうかとか、そんなもんである。

音楽のない人生は間違っている

ところで、60年代に続くロック全盛の時代には洋楽に日本語を乗せられるのかどうかというような論争があったと思うが、その前のアメリカンポップス全盛期のオールディーズに限っていうと、私見だが、「日本語ではとても乗れません」です。これはもう、英語の歌詞自体が音楽の一部というよりコアに音楽そのものだからだと思う。韻を踏んだり語尾を伸ばして繋げたり、それで人をたらし込んでいく。歌詞の内容は単純だし、詩的というほどのことでもなく、若者の日常会話に近いレベルの英語から拾ったのだろうけれど、だからこそこの雰囲気を生真面目な日本語で再現して心底陽気に歌うのは難しいのではないだろうか。きれいに翻訳してきれいな日本語で歌えばいいというものではないのだ。コニーフランシスなどはかなり達者な日本語で日本人向けに人気の曲をカバーしてくれているが、それをそのまま私なんぞが歌おうとしても日本語がしゃっちょこばってて重たくってほとんど離陸できない。地べたをずるずる這い回っているばかりナメクジのようである。これなら坂本九とかグループサウンズとか、和製ポップスを日本語で歌っていたほうがずっと気持ちいい。

例外もなくはない。代表的なのは和製ポップスの女王ともいうべき弘田三枝子がアメリカンポップスの女王たるコニーフランシスをカバーして歌っている「vacation」で、この曲に関しては弘田三枝子のパワフルな歌声が捨てがたい。当の弘田三枝子は7月21日に亡くなってしまった。しばらくは英語と日本語で交互に「vacation」を歌って追悼したい。


本日の「半可通」

言葉は音楽である
音楽は祈りである


付録

コニーフランシス「vacation」62年 「pretty little baby」61年
ペトラクラーク「down town」(1964年)
ニールセダカ「oh! carol」60年 「one way ticket」59年
ヘレンシャピロ「you don’t know」61年 「don’t treat me like a child」61年
ブライアンハイランド「itsy bitsy teenie weenie yellow polkadot bikini」60年
ジョニーシンバル「mr. bass man」63年
「save the last dance for me」60年


写真

本日のコレクション「暗黒物質」


冒頭の写真も下の写真も用途不明の鉄くずである

重い、安い、こういうものを見ると買わずにいられない

あえていうなら「見立て」て楽しめる

想像力を刺激する

”サイズ比較のためにセミの抜け殻を配しておいた


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