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本社に配属されるのはひと握りのアパレル業界ーーハギさんが20代でVMDになるまで

30代が近づくなかで人生の岐路に立ち、新たな道を切り拓こうとする人たちにインタビューしていく連載「それでも夢を追う理由」。4人目は、某イタリアブランドでフィールドVMD(ビジュアルマーチャンダイジング)として活躍しているハギさんに話を聞いた。

VMDとは顧客の購買意欲を引き出すための売り場の空間設計や商品陳列を手掛ける職種。ハギさんは接客スタッフ時代に店舗VMDを兼任したことを機に、この職を極めたいと思ったそう。しかし、アパレル業界では多くのスタッフが店舗に配属され、最終キャリアは「店長」とほぼ決まっている。本社に配属される人間は一握りだ。さらにVMDは人気職である上に離職率も少ないためなかなかポストが空かないという。そんな厳しい業界にいれば、はじめは向上心を持っていたとしてもそれを維持していくことは難しい。しかし、ハギさんは違った。それはなぜか。


若い人が育ちにくい国内のアパレル業界

アパレル業界でキャリアアップしていきたい気持ちはあったので、今の職場を何年まで続けて、次はこういう会社で働いて……とビジョンは立てていました。服飾の専門学校を卒業してから国内の大手アパレル会社に入社して。同僚にも恵まれて楽しく働いてたんですけど、ただ仕事への充実感はなかなか得られなかったんですよね。スキルが身に付けられて、かつそのスキルが給与や評価として返ってくる場所にいくためにはどうすればいいのか、ずっと考えてました。

国内アパレルの現場って若い人が育ちにくいんです。ハードワークな上に、給料は上がりにくいし、育成環境が整ってるとも言いづらい。それに本社勤務になる職種はポストがなかなか空かないから、大体の最終キャリアは店長。販売以外の仕事を目指そうとするにはハードルが高いんですよね。相当の情熱と高い目標がないと挫折しやすい業界だと思います。ファッションが好きで接客に対する熱量もあったのに、職場環境によって意欲が下がってしまう人も少なくありません。そういう人たちのモチベーションを下げずに育てていける環境が整えられるといいんですけど。

ただ、アパレルといっても色々で。セレクトショップとハイブランドでも雰囲気はだいぶ変わるんです。もしアパレルをやめたいと思ってる人がいるなら、価格のレンジが違うブランドで働いてみることをすすめたいです。自分の場合は、接客スキルを上げるために海外のブランドグループに転職してそれから色々変わったので。

前職の現場とは空気が全然違いましたね。高価な商品を買ってもらうには接客が大事になるから、ハイブランドで働く販売員たちは高いハードルを求められる。どちらがいいかは相性にもよるとは思いますが、自分にとってそれはすごく刺激的でした。


ここではVMDを専業にはできないと気づいて

VMDの仕事に出会ったのも2社目です。販売をやる傍らで担当させてもらったんですけど、これはめちゃくちゃ面白い仕事だなと気づいて。VMDとして本社に行くことを目標にしました。はじめは地方の百貨店に勤務してたんですけど、銀座の路面店で働かせてくれとわがまま言って異動させてもらって。こうしたいと思ったらすぐ上司に交渉するようにしてるんですよね。

でも銀座では今までやってきたことが全く通用しなかった。本社からフィードバックされることも多くて、これじゃだめだと思って猛勉強を始めたんです。定期的にマーケットリサーチをするようにしたり、本社のVMDと交流を深めて仕事の考え方を教えてもらったり、自分のディスプレイをいろんな人に見てもらって意見もらったり。とにかく夢中になって勉強してましたね。

それから徐々に成果が出てきて、最終的にはVMDの社内タイトルもつくようになったんですけど、タイトルがついても本社のVMDになることはかなり難しかった。人気だから倍率も高いし、ポストも空かない。先を考えたときにここではVMDを専業にはできないと思って、一旦外に目を向けてみることにしたんです。そしたら偶然、自分が前から好きだった国内ブランドが募集をかけていて。それで試しに応募してみたらそのまま受かって、ヘッドクオーターのVMDになることができたんです。

店舗のVMDとはまた違って面白かったですね。オープン前の売り場を手がけたりもするし、0から1を生み出すことにやりがいを感じていました。

ただ入社してすぐに、自分がこの役職を全うするにはまだまだ知識が足りないことに気づいてしまったんです。そこはすでに力がある人たちが自分たちの能力を最大限に発揮させているような現場でしたから。刺激を感じると同時に、このままで自分はちゃんと活躍できるのかと危機感を覚えました。

そう思っていた矢先、またタイミングよく転職エージェントから「〇〇が応募をかけてる」と連絡があったんです。そこはイタリアのブランドで、ディスプレイの仕方が自分好みで憧れの場所でした。ここなら海外の美的センスも吸収できるなと、実力試しぐらいな気持ちで受けてみたんですよね。

そしたらそのまま内定をもらえたんですよ。自分でも驚きました。これからそこで働くことになるので楽しみです。


アパレルを続けていけた理由 “バカだから何事にも鈍感っていうだけかも”

改めてアパレル業界で続けていけた理由を考えてみると、俺はあんまり他人と比較しないし、ダメ出しされても気にしないタイプなので、そこが大きいかもしれません。ミスしても「今日が人生で一番若いんだし」とか思っちゃう。まあバカだから何事にも鈍感っていうだけかもしれないけど(笑)。実は学生時代にボーカルグループを組んで有名になるために頑張ってた時期があるんですけど、路上ライブで誰も足を止めてくれなくても恥ずかしくなったり凹んだりはしなかったんですよね。あんまり周りのことを気にしなかった。

アパレルに入ってからも人間関係には悩まないようにしています。馬が合わない上司と仕事しなきゃいけない時期も過去にはあったけど、もう苦手だと思わないようにしてましたね。相手の性格が変わらない限りこっちはずっと苦手なままだし、でも相手はこっちのこと何とも思ってなかったりして、なんかそういうのってもったない気がするんですよ。だったら苦手だと思わない方がいいじゃんって……根性論みたいですけど。良くも悪くもポジティブなんでしょうね。目の前の不満について考えるよりも、自分が勝てそうな場所に行くにはどうするかを考えていたいんです。


ハギさん
服飾の専門学校を卒業後、国内大手アパレル会社に入社。その後、海外ブランドグループに転職。店舗VMD担当となり基礎を学ぶ。2021年には某国内高級ブランドで20代としては異例のヘッドクォーターVMDに抜擢され、現在はイタリアの大手ブランドにて日本国内のVMDを担当している。


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