北川佳奈

児童文学作家、絵描き。『ぼくに色をくれた真っ黒な絵描き-シャ・キ・ペシュ理容店のジョア…

北川佳奈

児童文学作家、絵描き。『ぼくに色をくれた真っ黒な絵描き-シャ・キ・ペシュ理容店のジョアン』、『クーちゃんとぎんがみちゃん-ふたりの春夏秋冬』(くらはしれい・絵/岩崎書店)、『ポラン先生ときけんなマジックショー』(小学館)など。

最近の記事

日記のお引っ越し

日記をお引っ越ししました。 kiinote

    • 5日ごとの季節

       東京に戻ってきて数か月、ようやく息のつける公園を見つけた。閑静な住宅街に残る、小さな小さなお山。  七十二候というものがあるけれど、自然というのは本当に5日単位で変わりゆくものだなあと思う。先週のお山と今週のお山では、表情や気配がまた違う。特に虫を見てそう感じることが多い。どこからか、わっと出てきて、パタっといなくなる。ああ、今日はこの虫が元気な日なんだな、と思う。  先週はわたしの好きな七十二候だった。蟋蟀在戸(きりぎりすとにあり)。この場合のキリギリスは、コオロギを

      • 虫がおいしくしたお茶

         カフェで「蜜香紅茶」なるものを飲んだ。  そこは紅茶を得意としているようで、メニューには40種類もの紅茶がずらりと並んでいた。多すぎる。思考が停止しかけたとき、「虫」という字に目がすいよせられた。あえて虫に噛ませてフェロモンを出した茶葉のお茶、というようなことが書いてある。迷わず注文した。  カップに注ぐと、琥珀色のきれいなお茶。名前に恥じぬ甘い香り。くせはない。虫と聞いたからだろうけれど、森林浴をしているような清々しさがある。胸から背骨にかけてが澄み渡るあの感じ。気持

        • 耳の名前、耳と名前

           ジコウカイクウにおできができた。  耳甲介腔。耳たぶと耳の穴の間のくぼんだところ。調べてみたら、小さな耳の中にはたくさんの部位があって、そのどれもに一丁前に名前がついていた。  ダーウィン結節という大仰な名前の部位もある。  「耳輪の後上部のまきこんだ縁にときにみられるにぶい突起」  結節はしこりのこと。耳輪は耳のてっぺんのふちで、パッキンみたいな形をしているところだ。下にむかってたどってみると、若干こりこりした、何かの名残のようなものが感じられた。おお、ずっとここにい

        日記のお引っ越し

          狂った夏のごはん

          この夏、狂ったように焼き味噌のお茶漬けばかり食べていた。暑くて台所に立つ気力が湧かないからだ。 焼き味噌は、小なべにサバ缶と味噌を入れ、酒、みりんを適当にふりかけ炒める。何となく水分がぬけてまとまったら、冷蔵庫で1か月ほど保存が効くと言う。お魚なのに。味噌の力なのだろうか、味噌はえらい。「適当」と「何となく」でできたこの焼き味噌が、すごく美味しい。 さて。器に玄米ごはんと焼き味噌、顆粒だし、すりごま、切り干し大根(袋から出したらちゃっと水洗いしてぎゅっとしぼる!)、シソの

          狂った夏のごはん

          スターバックスのレジで、たどたどしい者同士

           スタバの店員が、話しかけてくるようになったのはいつからだろう。  会話がへたなわたしには、美容室やアパレル店と似た重圧がある。そんなわたしが言うのもあれだけれど、向こうもなかなかのたどたどしさ、トンチンカンぶりなのだ。きっと好きで話しかけてくれているわけではないのだろうな、と思う。  はじめて話しかけられたのは、覚えている限り、筑波大学のスタバでだった。人懐こそうな若い女性が、にこやかに言った。 「お出かけですか?」 「あ、はい。植物園に」 「いま、何かやっているんです

          スターバックスのレジで、たどたどしい者同士

          児童文学作家の虫かご

          自己紹介 子どもの本の作家で、絵描きです。 このnoteでは、お仕事のこと、日々の暮らしのこと、 イラストなどを載せていきたいと思います。 児童文学作家の生態を、「おお、生きとるな」と、 虫かごをのぞくような心持ちで、時々ご覧いただけたら。 北川佳奈 | kitagawa kana 1984年東京生まれ。2016年絵本『かがり火』(青柳拓次・文/millebooks)刊行。2020年「シャ・キ・ペシュ理容店のジョアン」で第28回小川未明文学賞大賞受賞。出版社勤務を経て、現

          児童文学作家の虫かご