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「キッチンの記憶」

Ep.5
「キッチンの記憶」

食事をつくる。
お菓子をつくる。
自分のためにつくる。
誰かのためにつくる。

色んな場面で、色んな理由で、
人は台所に立ちます。

誰かにつくる、ということが
こんなにも幸せで楽しいのだと
私はあることをきっかけに知りました。

今回は、全く料理が出来なかった超絶不器用な私が、
一人暮らしをして成長するまでのお話。


私が台所に初めて立ったのは、
母とお料理キットでお菓子作りをした時。

最初は簡単なクッキーやホットケーキを作っていました。

当時は生地の甘い匂いに酔ってしまい、
ぐるぐると途中まで混ぜたら
すぐにキッチンから脱走。

加えて飽き性な私はすぐに投げ出して母にやらせてばかり。
結局食べることに夢中な食いしん坊でした。


小学校。

友チョコ、とやらが流行った頃。
毎年お菓子作りをする機会が訪れますが、
私は簡単なものしか作れません。

周りの子たちがキラキラ可愛くて
美味しいお菓子をくれるのが嬉しくて、
結局食べてばかりのバレンタインでした。


中学校や高校。

授業で調理実習をすると、
包丁や火を使う姿が危なすぎると先生に止められ、
鍋をかき混ぜるだけの係に任命される私。


大学生。

友達の家でお米を炊いてと頼まれ、
よく分からぬままお米を炊飯器に入れ、
「これで量あってるやんな?」
と聞くと、
「いや何合いれとんねん」
とつっこまれる私。

なぜか 2 倍の量を入れていたアホな私に
友達は爆笑していました。

これは学科の友達の間で知らぬ間に広まり、
しばらく笑われ続けました。


そんなこんなで、料理に苦手意識のある私が、
ついに一人暮らしをする時がきます。


社会人。初めての彼氏。

すごく料理上手な彼だったので、
引っ越したばかりの何もない部屋で、
質素なそぼろご飯しか作れなかった初日は
とても申し訳ないと思っていました。

しかし私の拙い初めての手料理を
すごく美味しいと完食してくれた時、
もっと美味しいものをつくれるようになりたい、
と強く思ったのでした。

私のために作ってくれる料理は
どれもお店のように美味しくて、感動してばかり。

その人は食材や料理の知識も豊富だったので、
知らないことを教えてもらいながら
隣であまり役に立たないアシスタントをしたものです 。

私も何か返したいと、
たくさんのレシピや動画を見て
一生懸命に練習する毎日でした。

野菜中心に体に良いものを意識して、
珍しい組み合わせで楽しんでもらえるように
レシピを漁り、

朝からスーパーマーケットで食材を選んで、
下準備をして、
お家に着くタイミングで
温かいものを食べられるように計算して作り始め、
洗い物も済ませ…

準備万端で大好きな人を待つのが
とてつもなく幸せな時間でした。


喜んでくれるか不安で、準備も料理も大変だったけれど、
誰かのために献立を考えて
その人を想って台所に立つのはこんなにも楽しいのだと
私は日々感じていました。

やがて、
昔の私を知っている人はきっと驚くだろうな、と思うような
美味しい料理が作れるようになりました。

すき焼き、ビーフストロガノフ、豚肉の野菜巻き、
夏野菜の南蛮漬け、焼き魚の野菜ソース添え、
小松菜ご飯、牛肉とゴボウの混ぜご飯、
白和えや長芋のマッシュポテト、
鯖とトマトのカレーなどなど
レパートリーはどんどん増えていきます。


しかし、
お別れする日に最後に作った料理はいつもより微妙な出来で
なんだか自分の気持ちも混ぜてしまったような味でした。

私は今までたくさん美味しいものをつくってもらったのに、
もっととびきり美味しいものを食べさせてあげたかったと
すごく思いました。

その日作りすぎた大量のごぼうの混ぜご飯は
なんだか薄味で、
翌朝炊飯器に残ったそれを
私 1 人では食べ切れませんでした。



それから時が経ち、
実家で暮らす私は料理をする機会は減りましたが、
代わりにたまにお菓子作りをしています。

ほうじ茶のスコーン


野菜やフルーツ、お茶を使ったパウンドケーキや
チーズケーキ、クッキーなど…
今は、いつも頑張ってくれている職場のお店の皆に
時々配って食べてもらっています。

大切な、 私のお店のスタッフさんたちが
少しでも喜んでくれたら、と思ってメニューを考えます。

やっぱり誰かが喜んでくれるのは嬉しいものです。

自分のために作るのもとっても楽しいけれど、
私は誰かに作って喜んでもらう方が何倍も嬉しくて幸せです。

何も出来なかった私の、大切な成長の記録。

切なくて温かい、「おいしい記憶」。


おすすめのレシピ本

長谷川あかり「いたわりごはん」


SNS で話題になった料理家、
長谷川あかりさんの初レシピ本。

疲れないのにきちんと見える。
体にやさしいのにちゃんとおいしい。
何度も食べたくなるようなメニューがたくさん。

薬味たっぷりだしカレーや鶏大根くるみ味噌煮、
ブリのムニエル春菊バターソース、
ホタテの海苔春巻き、
アスパラとレモンの炊き込みごはん、
レンコンと豚ひき肉の重ね蒸しなどなど…

メインやご飯もの、副菜まで
他にはないメニューが豊富に掲載。


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