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木原事件 ある国会議員一家の事件簿(2)

この物語はフィクションであり、登場する人物は全て架空の人物です。

捜査は本来なら被害者の妻である逸子に事情聴取することから始めるべきですが、やはり国会議員の妻と言うことは大きなハードルになっていました。そこで捜査陣は民雄の交流関係を中心に調べる竹田班と死因を中心に調べる唐沢班の2つに分かれて捜査することになりました。竹田班は父親から聞いていた逸子の家出に関与した山本淳の居所を掴むことから捜査を始めることにします。山本の実家を訪ねると両親は「あいつが何処で何をしているのかなんて全然わかりません。家に電話一つよこしもしないんだから」そこで刑事が事件当時の話を聞くと確かに1ヵ月くらい逸子親子が離れに住んでいたことを認めました。「あの時は警察も来てご近所にも迷惑をかけたさ」と思い出すように語りました。竹田班が民雄の友人や仕事関係者を一人一人調べていると、明るい正確だった民雄が事件の数ヶ月前から全く別人のように暗くなったこと、友人だった山本淳が覚醒剤の常習者だったことなどが判明します。

「お〜い!山下!」班長に呼ばれた女性刑事は竹田のパソコン画面を覗き込みます。そこには山本淳が現在、宮崎刑務所に収監されていると言う情報が示されていました。竹田は山本が覚醒剤をやっていたかも知れないと言う報告を聞いて法務省の情報システムを検索していたのでした。「お前、すぐに宮崎に行けるか?」「はい!大丈夫です!」と独り身の山下刑事は竹田に即答します。彼女は大学を出てすぐ警視庁に入庁していますが、いわゆるキャリアではなく確実に昇任試験をこなし、30才前ながら既に警部補に昇格し大塚署係長になっていました。「それなら相沢を連れてすぐに宮崎に飛んでくれ!」

山下刑事と相沢刑事は南国ムードいっぱいの宮崎空港に降り立つと宮崎駅までJR空港線で行き、そこからタクシーに乗ると宮崎県警本部へと向かいました。山下は刑事部に行くとこれまでの経緯を話し、法務省管轄の宮崎刑務所への捜査協力を依頼してもらいました。刑務所に着くと個室の面会室が用意されていてスムーズに山本と面会することが出来ました。緊張した面持ちで面接室に入って来た山本は2006年4月9日の事件のことを聞かれると「俺は何も知らないよ。確かに逸子をかくまってはいたけど、あの日民雄に連れていかれて、その後は何も知らない!」「逸子さんを取り戻しに行くとかはしなかったのですか?」「しないよ。めちゃくちゃ怒っていたし、あいつが大騒ぎしたから警察までやって来て、取り戻すなんて気にもならなかったな」その後山下たちは吉田夫婦と知りあった経緯などを聞いたものの結局この日はほとんど成果の無いまま帰らざるを得ませんでした。

山下刑事は羽田に戻る飛行機の中でひとり面談中の山本の姿を思い出していました。「知らないと言う言葉が強すぎる。彼はきっと何かを知っているに違いない」と確信すると山下はこれからもまだまだ宮崎通いは続くなと思いつつ羽田空港に到着しました。
(続く)

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