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木原事件 ある国会議員一家の事件簿(4)

この物語はフィクションであり登場する人物は全て架空の人物です。

唐沢班は殺人の犯行の様子は再現出来たものの、物的証拠の無い中で捜査は行き詰まります。そこで余りしたくないのですが、やむを得ず2006年当時の大塚署担当刑事を探し出し、何故捜査資料を検察に送付しなかったのかその事情を聞くことにしました。しかしながら当時の担当者は口が重く、死亡者の父親がどうしても自殺を認めないので、一応捜査を続けることにしたのではないかと言うことでした。肝心の何故自殺で処理しようとしたかについては皆、曖昧に言葉を濁しました。ただ事件の前日に嫁の父親が署に来て娘がDVを受けていると訴えていたことを覚えている人がいました。既に当時の相談記録は破棄されていて詳細は確認出来ませんが、捜査資料にもそのような記述が残されていました。ただ一人の刑事が「あの家族は在日で本人もヤクの常習者で乱暴者だったから余り捜査に力が入らなかったな」と本音に近い話を漏らしていました。

一方、竹田班も宮崎刑務所にいる山本淳の事情聴取を続けていましたが、山本の口は固く、なかなか成果は上がっていませんでした。そして捜査開始から2ヶ月が過ぎた6月のある日、大林捜査一課長は本命と睨む山本淳や鬼原逸子への事情聴取を視野に入れ、「伝説の落とし屋」と言われる取調官・斉藤警部補をチームに投入することにしました。管理官に「斎藤さん!あんたしかいないんだよ!」と言われると斉藤はまだ捜査中だった殺人幇助事件に未練を残しながら本件のチームに合流しました。始めは昔の事件になんで俺がと言う気持が強かった斉藤は資料を読み込んで行くうちに、だんだん事件への興味が湧いて来ました。「どう見ても殺人事件にしか見えないこの事件が解明されないまま闇に葬られていては死んだ人も浮かばれない」と思いを強くした斉藤は捜査に加わってふた月ほどたった8月のある日「俺に宮崎へ行かせてくれ」と上司に進言します。それこそ捜査一課長が斉藤に期待していたものであり、斉藤は早速、宮崎刑務所にいる山本淳のところに向かうことになりました。これまで十数回の面談でも口を割らなかった山本に何をぶつけるのか、斉藤は機内であれこれと思いを巡らせますが、なかなかいい方法が見つかりません。「こうなれば捨て身の作戦で行くか!」斉藤はある秘策を持って山本と対峙します。

「とうとう逸子が喋ったよ!あの夜、やっぱりお前はあそこに来ていたんだな!」斉藤がそう言うと山本の顔はみるみる強張って行きました。そしてしばらくすると観念したように喋り始めました。「確かにあいつに呼ばれてあそこに行きました。でも俺はやってませんよ!民雄が俺を刺して見ろってナイフを渡すから私刺しちゃったって逸子が電話して来たんです。あいつがどうしても来てくれと言うから行っただけです。本当です!俺はやってません!!」「わかった、わかった!それなら詳しく状況を説明してみろ!」斉藤はたたみ込むように問いかけました。「あの日の朝、民雄が家に来て逸子出てこいと大変な剣幕でした。俺は怖くなって隠れていましたが、逸子は観念したようにあいつと一緒に帰って行きました。そしたら夜中になって電話がかかって来たんです。やばいなって思ってホントはもう巻き込まれたくなかったんだけど、逸子が狂ったように頼むんで、やっぱ行かなきゃって思ったんです」「それでどうした?」「車で近くまで行ったんだけど、やっぱビビリました。少しうろうろしていて急に手袋がいるなって思ったんです」「なんで?」「そりゃ人が死んでるんだから、俺の指紋とか付いちゃいけないって思ったんです。ちょうどすぐそばにコンビニがあったので軍手を買いました」「それからどうした?」「民雄が倒れていて血がそこらじゅうに付いてました。そうそう逸子の背中にも血が付いていたんで早く着替えろって言いました」「で!お前はどうするつもりだったんだ?」「取り敢えず逸子の話を聞いていたらナイフに私の指紋が付いちゃったのでテープを剥がしてって頼まれました」「そのあとは?」「う〜ん!そうだ!机の上にヤクのパケがあったので慌てて本棚の下に隠しました」「なんでそんなことをした?」「だって空けてないパケが机の上に置いてあるってやばいでしょ」「それから?」「え〜と、そう!誰もいない子供部屋に行って、少しあいつが落ち着くのを待ちました。ふたりで相談して、朝起きたら民雄が死んでいたことにしようって。そんなことを話していたら急に誰かがやって来たんで、びっくりして電気を消してカーテンの陰に隠れました」斉藤は遺体発見当時の北永の話を記録として読んでいたので心の中で笑いながら「それでどうした?」と聞いてみました。「入って来た人がしばらくすると出て行ったので慌てて逃げました」「その時、ナイフはどうした?」「自分の指紋が付いてしまったかもと思ってカバンにしまい、代わりに近くの机にあったナイフを民雄の横に置いておきました。「で!そのナイフは今どこにある?」「家に帰る途中のどこかで林の中に捨てました」「場所は覚えているか?」「いや興奮してたし、どこを走っているかもわかりませんでした」

斉藤は電話で上司に報告するときちっとした調書を作るように他の刑事に宮崎に来るよう応援を頼みます。そして12年前の記録がまだ残っているかは不明だったものの山本の供述した時間帯のNシステムに山本の車が写っているかどうか調査を依頼しました。
(続く)

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