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木原事件 ある国会議員一家の事件簿(5)

この物語はフィクションであり登場する人物は全て架空の人物です。

女性刑事の山下はNシステムの画面に向かい、年月日・地域を指定したあと山本淳が事件当時乗っていた自動車のナンバーを入力しました。Nシステムはスピード違反の取締りに使うオービスとは異なり、犯罪捜査専用に使われる自動車番号自動読み取り装置で、画面上で運転手や助手席にいる人の顔まで見ることが出来、主に国道などの幹線道路に設置されています。山本淳の供述通り、彼が自宅から事件現場方向へ進む様子がNシステムに見事に写し出されていて、山本が死亡推定時刻から2時間ほどあとに現場付近に到着したことが確認されました。

捜査陣は山本淳の供述により新たな局面を迎えることになりました。少なくとも彼が実行犯でないことは明確です。山本の言う通り、逸子が本当に自分でやったかどうかはまだ分かりませんが、山本の到着時に逸子が遺体のそばにいたことだけは事実だと思われます。他に真犯人がいて山本の到着前にいなくなった可能性は否定出来ませんが、いずれにしても逸子が事件の真相を知っていることは間違いありません。そして当時の資料でも父親が当日夜DV相談で大塚署を訪ねていることやその直前に事件現場に行っていたことなどが分かっていて、捜査陣は福本謙三・鬼原逸子の二人に絞って捜査を進めることになりました。

9月に入ってもまだまだ暑い日が続いていたある日、山下刑事は彼女にとって10回目となる面談の為、山本のいる宮崎刑務所に向かいました。山下刑事は既に山本が当日12時前後に事件現場に到着したことをNシステムで確認したと伝えてありました。その為、殺人容疑そのものは既に晴れており、以前のようなピリピリした面談ではなく、会話もスムーズなものになっていました。山下は「山本さん、逸子さんとの思い出となるようなものを何か持っていませんか?」と聞いてみました。しかし山本からは「だいぶ昔の話だし、俺もいろいろなところを転々としてたからな~」とそっけない返事が返ってきました。でも、しばらくすると山本は「ちょっと待てよ!財布の中に1枚逸子との写真が入っている!」それだけは捨てられなくてずっとしまってあったんだ!あんたが刑務官に頼んだら財布から見つけてもらえるぜ」

それは逸子が満面の笑みを浮かべてピースをしている古びた写真で横にはやや暗い雰囲気の山本が写っていました。山下は山本に「これはどこでとったの?」と聞くと「本郷の居酒屋だな。実は俺、事件の後しばらくしてヤクで捕まったことがあってな。その時、一度だけ逸子が拘置所に来てくれたんだ。事件は自殺と言うことで捜査は終了しているから、もう何も心配はいらないって言われた訳よ。その時、この写真を渡されたんだ。あれが逸子と会った最後だったな」「ところでこの写真はいつ撮ったものなの?」「事件のあった日の夜だからよく覚えているよ。きっとあいつなりの餞別写真だったのかな?」「この写真、預かっていいかな?」「ああ、いいよ!」

本庁に帰った山下刑事は斉藤警部補にこの写真を見せ、撮った日時を話すと斉藤は「なんだと!これは逸子の笑顔の勝利宣言か!それにしても、この女はとんでもない女だな!」と呆気にとられていました。
(続く)

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