「博士の愛した数式」で涙が止まらなくなった
中学生の頃に「ダレンシャン」を読んで以降、本の面白さに取り憑かれた。
図書室にある本を言葉通り片っ端から読み漁り、14歳ながらに1日に2冊も読んでいた。
海外の本、誕生日占いの本、脚本、日本の小説、目につくものは全て手にとったが、唯一読むことができなかったのが森鴎外の舞姫だった。
とにかく言葉が難しく読んでも読んでも頭の中に舞姫の風景が全く浮かばず、惜しくも諦めた。
そんな本が好きだったわたしもいつしか大人になるにつれ、電子書籍やアニメ、漫画など新たな趣味が加わり、読む本は決まってビジネス書だけになった。
本のおもしろさ、本のなかに散りばめられた文字が与えてくれる豊かさをすっかりと忘れていたのだ。
先日ふと本棚を見た時に、かつて3回ほど読んだ「博士の愛する数式」が目について、もう一度読んでみることにした。
小川洋子さんが紡ぐ丁寧で美しい文章を2ページほど読んだところで、涙が溢れてきた。
美しいと思って自然と涙が流れるのは何年ぶりだろう…と、惜しむように読み進めていくとさらに涙がどんどん出てきた。顔はぐちゃぐちゃだ。
初めての経験で驚いたが、なんとわたしは「博士の愛する数式」の2ページから読み終えるまでずっと涙を流していたのだ。
この1冊、たった282ページの紙の重なりに心からの尊敬と湧き上がる感動とが混ざりに混ざって言葉にすることさえできない胸の奥の温かさだけが残った。
小川洋子さんの本は3冊しか読んだことなく、そのうちの1冊「凍りついた香り」もお気に入りなのだが、小川さんの選ぶ言葉の適切さ、繊細さ、丁寧さが大好きだ。
一つの文章も無駄がなく、だからといって率直なわけではなく、川に流れる水のようにゆらゆらとキラキラと思いを馳せさせてくれるのだ。
今この瞬間にこの本を読めてなんて幸せなのだろうかと心から思った。
読書は衣食住と違い生きる上では必要はないのに、やはり人生を彩ってくれるのだと改めて気付かされた。
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