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AIが浸透した社会でクリエイターが求められる役割は何か?

Blenderを映像制作に活用することがようやくできた頃、世間ではジェネレーティブAIによるグラフィックやイラストのニュースで賑わっていました。気持ち的に「3DCG制作に時間とコストをかける意味はあるのだろうか?」と、制作中に少し不安になっていました。

しかし、BlenderやUnityを活用して、業務のニーズを満たす映像を作る過程で、ある事に気づきました。

細かい修正作業にどこまで対応できるか?

それは「細かい修正作業が多い」という点です。

細かい修正に対応できる技量

業務で動画制作をしていると、初稿を制作チームや依頼者の間で共有し、フィードバックを回収します。その際、「視聴時の違和感」や「おおむね良いけどもうちょっとなんとかしたい」という、わりと抽象的だけど直感的にストレートなフィードバックがあがってきます。たいていは、褒めより気になる箇所のほうが多いです。

クリエイターに求められるのは「細かい修正に対応できる技量があるかどうか」な気がします。もちろん「要望に対して、金額や納期やリソースを鑑みて、修正をしない」という意思決定し、ステークホルダーを説得するのも対応になりますが、それもまた技量です。

例えば、UnityやBlenderの仮想カメラで収録をしていると、3Dモデルが特定のモーションをした際にだけ、メッシュが透けてチラついてしまう事がありました。

また、CyclesやEeveeなどのレンダリングエンジンを変えるだけで、仕上がりの全体感が大幅に変わるため、そのレンダリングエンジンに適した作りをする必要があったり。

PremireProやAfterEffectscなど映像編集でもBGMとあわせた時のシーンの切り替えがBPMやリズムとは合っているけど、体感的には合っていないので、食って入るように切り替えるとテンポが良くなるなど。

「おおむね良いけどもうちょっとなんとかしたい」の粒度


完成度90%の状態から、依頼人やクライアントからの「修正要望」である残り10%を、クオリティ的に実現できるかどうかがポイントになります。

逆に完成度90%くらいまでは、ツールや使い回しや経験や慣れで短期間で到達できる事が多い気がします。それこそ、プラグインやツールを使って時間短縮するのも有効で、ジェネレーティブAIを活用すれば90%までは大幅に時間短縮できるかもしれません。

そして、その残りの「10%」とは「創作の神は細部に宿る」とか「職人にしかわからない伝統芸」みたいなものではなくて、煩雑で雑多な修正要望だったりもします。

例えば、3Dモデルが特定のモーションをした際にだけ3Dモデルが透けてチラついてしまうとか、芝生のモデルが途中で切れているので継ぎ目をなおすとか。歩行モーションがよく見ると真っ直ぐ動いていないので、モーションを微調整するとか。ロゴを3Dモデルに貼ったら縦横比が変わってしまっているので、正しい比率にするなど。

「おおむね良いけどもうちょっとなんとかしたい」の粒度はこんな気がします。

「AIで生成したから修正できません」とは言えない

依頼主やクライアントから「この部分を修正してほしい」と言われた時に「AIで生成したから修正できないので、新しく生成しなおします」とか「AssetsStoreで購入した素材なので修正できません」とは言えない。

「なんでここはこういう表現なの?」と聞かれた時に「プロンプトはこういう指示を出していますが、そういった表現になっている理由はわかりません」とは言えない。

それは商業音楽でも同じで「ハイハットの音がちょっと単調なので、パターンを崩しつつ、音は抑えめにしたい」と修正要望があった時に「AudioStockとSpliceで買った音源なのでイジれません」「フリー音源なので修正できません」とは言えないのと同じだと思います。

良いものをつくるのも大事ですが、依頼主やステークホルダーの「おおむね良いけどもうちょっとなんとかしたい」「ここどうなっているの?根拠を示してくれれば納得できるんだけど」というニーズを満たすことも大事になります。

クライアントが満足しお金を払ってくれ、かつ次の案件でも声をかけてくれるかどうかは、90%の作業が完了した時点ではなく、修正につきあって100%まで対応してくれたかどうかが大きな要素だと思います。

お金をだすのは人であり、AIは予算編成や資金調達はできません。クリエイターがビジネスとしてお金を得るためには、問題や課題を解決する必要があって、クオリティの高いアウトプットを提出するだけでは、依頼主やクライアントは満足しづらい。

ジェネレーティブAIが生成する美麗なイラストは、アウトプットとしては正解なのかもしれませんが、自分がほしい最強の絵を提出するだけで、ビジネスとして継続的に利益を出していくのは難しい気がします。

プロンプトを修正してガチャを引き続けるのも残り10%の追求ではありますが、その局面で求められているのは生成ではなく修正になるからです。

言い換えるなら「お金を出してくれる人のニーズに最後までつきあってあげられるかどうか」な気がします。世にいう「満額回答」とも言えます。

人はニーズを満たした時にお金を払ってくれる

UIやUXが注目されているのは、良いインターフェイスや美しいデザインなのではなく、そのUIが既存のビジネスやサービスの課題をクリエイティブで解決していて、その効果に対して多くの報酬が支払われているからだと思います。

完成度90%に対して、残りの10%をあげるためには、網羅的に知っていないとできないし、問題を解決しないと次に呼ばれなくなってしまう。

「AIが作ったのでなおせないです」となると「あ、じゃあ(次の案件から)もう良いですー(呼ばないので)」となってしまうのが難しいところかもしれません。

これはジェネレーティブAIに限った話ではなく、AudioStockの音源素材や、AfterEffectsのモーション、UnityのAssetStoreの素材など「自分の手で作っていない、便利な何か」を活用する際に求められる、避けては通れない何かだと思います。

結論

人間に求められる仕事って、泥臭くて煩雑でお金で解決しずらくて、ステークホルダーでグチャグチャになっていて、情報は断片的で、誰かがやってくれたら良いんだけど、誰もやってない。みたいな種類のやつだと思いました。

それはAIが目指している「豊富で整備されたデータをもとに、最適解を導き出す」とはちょっと違う気がしました。

「泥臭くて煩雑な課題解決」の仕事はおもしろいので、AIに譲るにはちょっともったいないなと思いました。

BlenderもUnityも、頭を抱えるような煩雑な問題ばかりに直面しますが、ChatGPTとかに聞いたりしつつ、1つ1つ地道に解決することは大事なことなんじゃないかなと思いました。

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