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もう会えない人について

彼女とは有楽町のルノアールで出会った。結婚相談所を経由しての出会いだった。
彼女はルノアールの看板の近くで下を向いて待っていた。
正直言って美人というタイプではないけど、地味で可愛らしい顔立ちだった。化粧っ気はなかった。メニューを見て注文を済ますと、彼女はメガネを外して少しだけ唇を口の中に巻き込んだ。それが少し神経質で、緊張してそうな印象を受けた。

あまりうまく書けない。話した内容を思い出すのは疲れるし、胸も痛む。

三回会って、僕はその人が好きになった。向こうも僕が好きだったはずだ。手だって向こうから繋いできた。

四度目のデートで告白した。東京タワーがよく見える公園で。下見をして、ずいぶんちゃんと準備した。結果としては保留だったが、理由は相談所特有の慣習のような内容で、実質OKだと言われた。

うーん、ここからの話もうまく書けない。辛いし。

七度目に会う予定の日、彼女は40度の熱が出たと連絡してきた。そして二日後、交際終了の連絡が来た。理由としては、身内の不幸があったなか婚活をして、ストレスで適応障害になってしまい、婚活をお休みしたいためということだった。
その頃には自分は彼女のことを、これ以上無いほどに好きになっていた。代わりの人が見つかる気なんてしなくて、自分も一緒に相談所を休んだ。

休んでから一ヶ月半。たまに連絡を取っていたのだが、先日LINEをブロックされた。理由なんてわかるはずもない。結局のところストレスの原因に自分も含まれていたんだろう。彼女は僕を好きだったはずなんだけど、同時に受け入れられない何かがあったのかもしれない。調子が悪いなか僕と連絡をとることで、最終的には受け入れられない方に針が振れたんだろう。
こうして僕の世界から彼女は居なくなった。

ここまでが顛末だ。

実際に会っていた期間はたかだか1ヶ月ちょっとなのに、ずいぶんと傷ついた。なんでこんな気持ちになったのか、ちゃんと整理しておきたい。
彼女との出来事を、適当な思い出話で終わらせられない。この出来事と自分の気持ちを整理して、そこからちゃんと学びたい。そうやって自分は前を向きたい。

彼女は人間性で勝負していた。
結婚相談所で活動していると、しょうもないマナーを学びがちだ。初デートは男が奢るとか、店は種類の違うのを3種類ほど提案して、そこにイタリアンを含むのが無難だ、といった知識だ。
彼女は、そういったマナーがどうでも良くなるくらいに自分のことを正直に伝えてきた。

彼女は音楽活動をしていた。そして、ある程度の結果を出していた。作った作品を僕に聴かせてくれた。しかも、彼女の音楽の趣味は僕と近かった。僕は大学時代に作曲や歌に挑戦したのだが、あまりに才能が無さすぎて挫折していた。
彼女は友人がやっている居酒屋に僕を連れて行ってくれた。彼女は自分から人間関係を作れる人だった。僕にはエンジニアの友達しか居ない。自分から気になる人にアプローチして友達を作っていくということをしてこなかった。大学時代なんて黒歴史だったので、古くからの付き合いといった友人も居ない。
彼女はお気に入りの散歩道を僕に紹介してくれた。それは僕も気に入る散歩道だった。細々した道を抜けた後、視界が開けて遠くに富士山が見える素敵な散歩道だった。彼女が紹介するもののうち、僕も良いと思う確率は5割程度だっただろうか。僕はそこそこ選り好みをする性格なので、5割は非常に高い割合だった。

そんな彼女の人間性に惹かれていた。

ここから反省に移りたい。

僕は、彼女の中に上記に書いたような素晴らしい部分を見出していた。そして、彼女の魅力は、裏を返せば僕の弱点でもあった。
つまり、僕は自分の創作活動に蓋をしてきたし、気の合う友人作りを積極的にしてこなかった。僕は彼女を通して、より「なりたい自分」になりたいと想像していた。彼女と付き合えたら、彼女の手を借りながら僕は成長出来ただろう。例えば彼女のサポートを受けながら音楽活動が出来ただろう。だけど彼女が居なくなった今、彼女に惹かれた点を分解して、自分ができるところは自分でやって、他の人に頼れる部分は他の人に頼ることで、やっていくほかない。

まず、自分は挫折した音楽活動を含む、自分を表現する活動を始めるべきだ。大学にその手の事は色々試して、挫折してITエンジニアになったんだけど、才能がなかろうが始めていこう。ITエンジニアの仕事と勉強に熱心で、創作活動はおざなりになっていた。ITエンジニアは素晴らしい仕事だと思う。自分に向いている。問題を解決する優れた構造を考えるのが楽しいし、それをユーザーに使って喜んでもらえるのが嬉しい。でも僕は自分の表現にもっと向き合いたい。その時間をちゃんと取ろう。

そして、心の通じ合う友達を作ろう。友達は少数ながらいる。ただ、みんな家庭をもったり、コロナをきっかけに遠方に住んだりしてそんなに会う時間が無い。それに、心から話せる人が少ない。それは相手が悪いのではなく、自分が自分の心に蓋をしていたからだ。自分はこうやって自分について語って、表現を始めて、理解し合える友人を少しずつでも作ろう。

そして、婚活について。相談所での活動はもうしばらくお休みすると思う。
今のままでは、初対面の人にどんな風に自己紹介すればよいかわからないからだ。まず自分のアイデンティティをもう少し確立したい。具体的にはこういった文章や音楽などをアウトプットをしたり、気の合う友人と交流して自分のアイデンティティを作っていきたい。その過程で良い人に出会えればこれ以上無い幸運だし、それが難しそうであれば改めてマッチングアプリなり結婚相談所なり検討しよう。もういい年だし、こうしたことをすればまた時間が経過してしまうが、仕方ない。

これはとても大切なことだ。

彼女の適応障害が治ってほしくて、神田明神に毎日お参りした。神頼みするタイプではなかったのだけど、出来ることはなんでもしたかった。ブロックされた日を最後に、もうお参りはしていない。
僕はできることはやった。そんな自分を愛していきたい。


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