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SS【紙飛行機】#シロクマ文芸部

小牧幸助さんの企画「子どもの日」に参加させていただきます☆

お題「子どもの日」から始まる物語

【紙飛行機】(1710文字)


 子どもの日には、なかよし三人で紙飛行機を飛ばす。
 ただ公園に集まり自作の紙飛行機を飛ばしっこするだけだが、自分がこしらえたものを自慢したいので、一生懸命作ってくる。
「タケやん、今年の飛行機はえらいカッコええやないか」
「へへ。そうじゃろう?羽の角度もな、工夫してみたんじゃ」
「イッちゃんは真っ黒か。強そうじゃのう」
「渋いじゃろ」
「そういや、トモやんはどうしたんじゃ。まだか」
 その時、お待たせ、おまたせ、という声がしてトモやんが駆けてきた。
「気ぃつけろよ、トモやん。転ぶぞ」
「転ぶか、アホ。釣り竿持ってきたんじゃ」
「釣り竿?なんにするんじゃ」
「実はなぁ、一番に来て試験飛行したんじゃが、枝に引っかかってしもて」
 トモやんは眉をハの字にして、目の前の桜の木を見上げた。桜と言っても今は葉桜だ。目をこらすと枝の中ほどに白い飛行機が引っかかっている。
「あーあ、届くんか?あんな所」
「アホはトモやんやないか」
「アホ言うな、タケやん」
 トモやんは悲しそうな顔をして釣り竿をいっぱいに伸ばし、枝に引っかかっている飛行機を突く。しかし飛行機にはあと少しというところで届かない。トモやんの眉がさらに下がる。みんなで釣り竿が届くところの枝を叩いたり、幹を押したりしてみるが、飛行機は落ちてこない。
「いったん、あきらめようや」
「風が吹いたら落ちてくるかもしれんし」
「トモやん、がっかりすな。まだ時間あるし、な」
「オレの飛行機、貸したる」
 ションボリするトモやんをなぐさめながら、二人はそれぞれの紙飛行機を飛ばし始めた。青空の下でふたつの飛行機が交差するように飛ぶ。
「ああ、ええ眺めやなぁ」
 トモやんも、見ているうちに少し元気になって笑っている。
「ほら、トモやん、これ飛ばせや」
 タケやんにカッコいい飛行機を貸してもらい、トモやんがエイッと飛ばす。羽の角度を工夫したと言うだけあって、タケやんの飛行機はスウッと風を切って美しく飛ぶ。滞空時間も長い。
「ええ飛行機やなぁ。あーあ、わしの飛行機もよく飛んだんじゃがなぁ」
 トモやんの飛行機はまだ枝に引っかかったままだ。
「飛び過ぎて引っかかったんじゃな」
 イッちゃんがなぐさめる。
 それからも二つの紙飛行機を三人で代わる代わる飛ばしっこしているうち、あっという間に日が暮れてきた。
「早いのぉ……、もう夕暮れか」
「帰らにゃならんな」
「また来年、じゃな」
 見るともなしに、みんなの目が桜の木を見る。結局、トモやんの飛行機は取ることができなかった。
「来年まであそこにあるかなぁ」
「無理じゃろ」
「あーーーあ……」
 トモやんの、哀愁に満ちた長い嘆息とともに、太陽が山の端に沈む。同時に、三人の爺さんたちの影も薄れていった。


 かつての子ども……今は天国住まいの爺さんたちは、この日だけ下界であそぶことができる。子どもの日は、今生きている子どもだけでなく、かつて子どもだった人たちの日でもあるのだ。
 それは生きている者も死んだ者も、分け隔てはない。

 さて、トモやんの飛行機は、夜中に強く吹いた風で地面に落ち、早朝の散歩をしていた一人の爺さんに拾われた。こちらはまだ生きている爺さんだ。爺さんは、どこかの子どもの忘れ物かと思ったが、誰も見ていないから……と、紙飛行機を飛ばしてみることにした。
 右腕をうんと後ろに引いて、グンと前に突き出す。肘に微かな痛みが残ったが、その動きは爺さんに遠い昔、子どもだった頃の感覚を思い出させた。
トモやんの紙飛行機は、高い空をスウーーーっとツバメのように美しく飛んだ。

「どうじゃ、わしの紙飛行機はよく飛んだじゃろ?」
 トモやんは、天国で得意気にタケやんとイッちゃんに向かって言った。
「ほんとじゃ、ほんとじゃ」
「トモやん、いいことしたなぁ。あの爺さん楽しそうじゃ。ほれ、また飛ばすぞ……」

 下界の爺さんは、トモやんの飛行機を再びエイッと大空に向かって飛ばした。飛んでいく飛行機を追う爺さんの目に、朝焼けの空に浮かぶ雲が笑っているように見えた。


おわり


© 2024/5/5 ikue.m


・・・・・公園で紙飛行機を飛ばして遊んでいるお爺さんたちは、うちの近所に実在しております。木に引っかかった飛行機を、釣り竿で取ろうとしていたのも実話。散歩中に見かけた私がネタにしました(*´ω`*)ぷふふ
今の子どもたちはもちろん、かつての子どもたちにも幸多かれ……♡

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