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11:39新宿三丁目

朝8時半に新宿郵便局前で荷物の受け渡し、その後一人で新宿三井ビルのロイヤルホストでモーニングを食べて、10時オープンの北村写真機店にネガとデータを託し、ココカラファインでリップを見て、もう一度北村写真機店に戻りデータプリントを受け取り、ネガプリントが仕上がるまではあと1時間かかるので近くのセガフレードでメッツォメッツォのピッコロを頼んで窓際のカウンターに座る。データプリントしてもらった写真を広げ、写真の写真を撮り、依頼人である友人に送る。今日は一日暇になることが分かっていたのでエイを連れて水族園に行こうと思っていたが、途中で元気がなくなる予感がしていた。だからせめて早起きがしたいなと思い、忙しくて時間がない友人に半ば強引に頼み込み、今新宿でおつかいをしている。
ロイヤルホストは大好きだけど朝にパンを食べたいと思う日が年に数回しかないのでモーニングに行くことは少ない。パンじゃないメニューもあるが、そこまで食べたいと思えない。それらの理由のせいでなかなか私がロイヤルのモーニングに行く機会は少なく、今日のような予定がないと行かない。でも、行きたさだけはあるのだ。どうせ行くなら都心じゃない場所にあるロイヤルが良かったけど、、用事と用事の合間にあるロイヤルは新宿三井ビル店だったのでそこにした。いつ行っても10組ほど待っており、席の間隔も広くないロイヤル。私の中では渋谷道玄坂店と同じ括りのロイヤルホスト、つまり「(私が勝手に思う)ロイヤルらしさを味わうのであればあまり人にお勧めしないロイヤルホスト」である。
新宿の通勤ラッシュの人の波をかきわけロイヤルに辿り着き8時20分頃に入店して、そのあまりの静かさに驚いた。私の知っているロイヤルホスト新宿三井ビル店ではない。一人客しかおらず、誰も言葉を発していない。朝にしか流れない音楽が流れている。用意されたてのオレンジジュースが美味しい。
ロイヤルホストは定時刻に流れる音楽というものがある。私が把握しているのは15時、18時、21時に流れる音楽。朝9時に流れる音楽があることは知っていたが、いつ来ても誰かと喋って聞き逃し、その音楽を聴いたことが一度もなかった。
2杯目のオレンジジュースを取りに席を立ち、グラスになみなみ注いでるところでその音楽が流れた。それがそうだとすぐにわかった。ロイヤルの定時刻に流れる音楽は大野雄二作曲のものだと聞いたことがあり、私は18時と21時に流れる通称「ロイヤルホストのテーマ」が1番好きだった。シューベルトの「野ばら」が組み込まれており、その音楽の美しさとうらはらに「もう21時じゃん!あがりなよ!」と大学生のアルバイトの男の子に声をかけているベテランの女性の店員さん、という光景がとても好き。
朝9時の音楽は素晴らしかった。うろ覚えだが、「♪さわやかな朝 ロイヤル」みたいな歌詞が入っていた。音楽って素晴らしい、とすら思える。ここ最近で1番、何も考えずにぼーっとできた。朝の光、天井の高い店内、カチャカチャと聞こえる誰かのカトラリーの音。
今、雨が降ってきた。急な大雨。雨雲レーダーを見ると、ここから3時間は降り続くらしい。困ったな。家に帰りたいのに。でも、多分いける。私は新宿の地下通路を97%把握しているので、濡れずに家に帰るルートが見える。カウンター席の窓から空を見る。風がある。今降っている雨は少し離れた場所にいる雨雲の雲かもしれない。
こんな風に、何も考えずに文章を書けるようになるまで結局2年かかった。1年書いて、2年休む。自分の書くサイクルは今までもこれからもずっとそんな感じなのだと思う。文章は、誰にも求められていない感じが助かる。誰かが求めていたとしても、私の肩書きがそこにはないので気楽でいられる。ずるい逃げ道をたくさん作って生きているけど、悪いことではないと思う。人に迷惑もかけてない。ただ、なんとなく嫌な気持ちなる人はいる。自分は決して器用ではないが、世の中には不器用な人がたくさんいる。器用な人もたくさんいる。雨は止まない。小さな折り畳み傘ひとつに肩を寄せて歩くカップル。大きなビニール傘を一人で使い颯爽と歩くピンク色の髪した女の子。新宿で聞くイタリア語。
次に作る日記本の原稿を発掘して、あ、いま店内でマイケルジャクソンが流れてる。嬉しい。マイケルは、好き。勇気をもらえる。どんなにひどい人だったとしても、私は、私のことを傷つけてない人のことは嫌いじゃない。私にとってはいい人でも誰かにとっては極悪人で、誰かにとってはいい人でも私にとっては生きていて欲しくないくらい嫌いな人。「多面的な人になりなさい」って、19歳の時に言われて、今自分はどんな人間になれただろう。雨は横殴り。自分の中の暴力性に悩んだ時期があったけれど、写真を撮るという行為がそもそも暴力を孕んでいるため、これくらいでちょうどいいのかなと思えるようになった。
書きかけていたこと、なんだっけ。そうだ次の日記本の原稿を発掘して、あ、今ワドルディの大きなぬいぐるみを持った外国籍の女の子が目の前を通っていった。傘もささずに。いいね。いい時代。急げ急げ。生き急いだとしても、誰にも関係ないよ。傘、世界中に何本あるんだろう。赤いヘッドフォン。あらかじめ決定されている不条理な定めの中で、どうやって自由意志と幸福を見出すか。今読んでいる本のレビューに書いてあった言葉。いい言葉だと思う。日本語と英語をいったりきたりして思考するのが自分にはあってるかも、と最近思う。思っているだけで、やってない。

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