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患者さんを殺すところでした。

③平成12年・総合病院169床・千葉県(その11)

私に看護師として再スタートさせてくれた透析看護。
看護師としての変化や成長は、患者さんがいてくれたからこそです。

この病院で出会った、特に記憶に残っている患者さんとのエピソードをいくつか書きたいと思います。

「患者さんを殺すところでした。」
かなり物騒なタイトルですが、事実です。

今思い出しても、焦ります・・・・

透析は延命治療であることを何度も書いていると思いますが、どれだけ安定している患者さんでも、何が起こるかわからないのが透析です。

特に起こりやすいのが、急激な血圧の低下。
意識がなくなったり、ショック状態になったり、状態が悪い中での透析では死と隣合わせです。
透析しなければ死ぬけど、透析したら死ぬかもしれない。
そういう患者さんからは、目を離す事ができません。

一見安定して透析を続けている人も、睡眠不足だったり風邪気味だったり、ちょっとした体調の違いで、透析中に具合が悪くなる事が多々あります。

体調の変化だけではなく、行っている透析の種類によっても負担・リスクが違います。

私がアクシデントを起こした患者さんは、HDFといって、通常の透析とは少し違う透析を行っている方でした。

普通の透析は、例えるなら、血液を洗濯機の脱水モードで、余分な毒素を血液から分離させて綺麗にするような感じです。

HDFというのは、脱水中に水をザバザバかけて、洗い流しながら毒素をさらに分離させて綺麗にするようなやり方です。

その病院にはオンラインHDFという機械の数が少なく、手動で行う場合がありました。

オンラインの場合、洗い流すのに水をたくさん使う分、機械が計算してくれて洗い流す分も余分に脱水してくれます。
水を使うのと、脱水の量は機械が連動させてくれています。

けれど、手動で行う場合は、脱水の量はスタッフが計算して機械に入力します。洗い流す追加の水も、手動で繋げて流します。
この場合、流す水と脱水の量は連動していません。

洗い流す水を止めたまま、たくさん脱水する状態にしてしまい、一気に脱水された患者さんは急激に血圧が下がり、ショック状態になってしまいました。


気付くのがあと少し遅ければ、本当にどうなっていたかわかりません。


幸い、患者さんの「なんだかお腹が痛い」という自己申告のおかげで患者さんの側にいる時の急変でした。

「なんでお腹が痛いんだろう・・・あれ、血圧下がってきた、あれ、意識が薄れてる!?あれ、水、流れてない!!」と気付く事ができて、ショック状態になった時、すぐに対処することができました。

アラームも鳴らず、あの時もし側にいなければ・・・・
患者さんの変化に気付けたのは、次の定時バイタルサインズ測定だったら・・・意識のない状態がしばらく続いたまま・・・・

もしかして間に合わなかったかも・・・
そう考えると、手がガタガタと震え、膝がガクガクし、休憩室に引っ込んでボロボロ泣いてしまいました。


人をひとり、
死なせてしまっていたかもしれないという恐怖。


自分が何気なくやっていた仕事が、死と隣り合わせという事実を突きつけられた気がしました。


ショック状態から脱して、透析を無事終える事ができた患者さん。

実は、その患者さん、叩き上げの社長さんで、かなり怖くて文句も多い人だったんです。

さらに、大学病院の部長と親しく、部長の紹介状付きで転院してきた人でした。

コワいから、最小限にしか関わらないようにしてた患者さん・・・・

そんな人をあわや殺しかけてしまった私。

患者さんは、どうして急に血圧が下がってしまったのか、ショック状態になってしまったのか、理由を知りません。

死にかけるところだったけど、実際にはショックを脱し、無事に透析を終える事ができている。

そう。

逃げることもできたわけです。

師長、技師長から状況の報告はされましたが、誰が起こしたアクシデントだったのかまでは伝えず、患者さんも問いただす事はありませんでした。


わざわざそれを「自分のせいだ」と言いに行く必要はない。


でも、私は、この先ずっと、関わっていく中で、やましい気持ちを持ちたくなかった。

ちゃんと、謝りたかった。

迎えの車に乗り込む患者さんを追いかけました。


「Aさん!今日の急変、私のせいなんです!!

私が機械の設定を間違えたから・・・・」

「ばかやろー!責任とれ!!」とか、
「部長に言いつけるぞ!!」とか、
なんやかんや怒鳴られたり、偉い人に報告されてめちゃめちゃ怒られる!!とビビってた私・・・


「そんなこと、わざわざ言いにくる必要ないのに。
 あんた、正直だな。
 べつに謝る必要、ないよ。」


そう言ってくれたAさんは、まだ青い顔をしていてとても辛そうなのに、笑ってくれていました。


この患者さんとは、この事をきっかけに、ものすごく仲良くなりました。
「正直である」ことを認めてくれたのだと思います。

表面上に問題がなければそれでいいと、ごまかしてた自分。

仕事だったり、生き方だったり。


逃げない。ごまかさない。正直になる。
失敗してたら、失敗した後にどうするかが大事。


当たり前で、大切な事。
こんな事も透析看護が教えてくれました。


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