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エツィオ・マンジーニの著書3冊を紹介

イタリアのデザイン学者、エツィオ・マンジーニの著書3冊を読み終えたので、ここで紹介します。
彼は、ソーシャルイノベーションやサステナビリティをキーワードに活躍しています。私の通っている武蔵野美術大学クリエイティブリーダーシップコースでは、よく名前を聞く学者です。

デザインという言葉が、日本ではビジュアルをカッコよくする人というイメージがあります。でも、実はデザインは誰もがやっていることなんだよということを認識するためにマンジーニの著書が役にたつと思います。

そして、みんながデザイナーである時にどう日々の生活が変えていけるのか?その能力を引き出していくにはどうしたらいいのかの示唆もあります。

昨今では「まち(City)」とこれらのソーシャルイノベーションの可能性をマンジーニは、見出しているようです。

<紹介する本>
1. Design, When Everybody Designs - 2015
2. 日々の政治(Politics of the Everyday) - 2019
3. Livable Proximity - 2021

1. Design, When Everybody Designs

2015年に出版されたのが「Design, When Everybody Designs」です。
日本語訳書が出ていないので、英語版を読みました。

タイトルからも分かる通り、この本には、「今や誰もがデザイナーである。」ということが根底にあります。そのような時代において、専門家であるデザイナーの役割ややり方はどうあるべきかについても記しています。

また、ソーシャルイノベーション(社会的ニーズを満たすと同時に新しい社会的関係者コラボレーションを生み出す新しいアイデア)についても事例とともに、詳しく紹介されています。

マンジーニの根底にはサステナビリティがあるので、地球の限界を認識していない古い「無限」の世界を否定し、限界を認識してそれをチャンスに変える方法に我々は生きていると説きます。

そのためには、人々が自身がデザイナーであることに気づき、その能力を発揮することが必要です。そして、コスモポリタンローカリズムと分散型システムの文化のもとに、コラボレーションして進めていくべきと記されています。

デザインって結局何かわからんという人や、現在デザイナーである人、何かを変える方法を模索している人におすすめの本です。この本は事例が多いのも特徴です。

2. 日々の政治(Politics of the Everyday)

2019年に英語出版された著書です。日本語訳版は、2020年に出版されています。
この著書がマンジーニの本で初めて日本語訳されたようです。

私は日本語訳版を読みましたが、今度英語版で挑戦してみようと思います。
一つ目の「Design, When Everybody Designs」の言葉との差異を見るためには、英語版で読んだ方がいいかなと思ったからです。

伝統が消滅し、これまで人々の生活を導いていた慣習が消えつつある現在は、誰もが自分の人生(=ライフプロジェクト)を自分自身で選択しなければならなくなりました。つまり、自分の日常や人生の筋書きを、自分でデザインすることになったのです。デザインするということは常に価値の選択であり、意思決定であり、すなわち「政治」です。本書で著者は、そうした政治(政策)を「プロジェクト中心民主主義」という視点で捉えることで、自分がいる場所(ローカル)から世界を変えるソーシャルイノベーションを説きます。そして、私たち一般の市民がいかにデザイン能力を伸ばし、「デザイン文化」として根付かせ、より大きな政治・社会変革に関与しうるのか、その道筋を示します。

http://www.bnn.co.jp/books/10628/

ここでは、人々が人生や生活のシナリオを自ら描くこと、つまりライフプロジェクトが必要であることを述べています。また、それらを動かすためのヒントとして、ローカル、開放性、コラボレーションについて説明しています。

この本はボリュームがあまりないので、これからマンジーニを読もうと思うけど英語が苦手という人は始めに読むと良いかもしれません。
ただ事例がなくイメージが湧きにくいので(あえてそうしているようです)、前提を理解するためには「Design, When Everybody Designs」を先に読むのがおすすめです。1→2の順番で読んだほうがより洗練された文章になって、理解が進むと思います。

3. Livable Proximity

2021年に出版された著書です。こちらも日本語訳版がないので、英語で読みました。
オンデマンドで印刷されるようなので、届くまでに少し時間がかかりました。

この本のキーワードは「プロキシミティ」「まち(City)」「ケア」です。
これまで紹介した2冊から、このキーワードに辿り着いたようなイメージです。

彼のソーシャルイノベーションの事例は、共同住宅、食のコミュニティ(スローフードやファーマーズマーケットなど)、高齢者のサポートサービスなど「まち」や「ローカル」に関わります。そのため、彼が「まち」に行き着いたのには納得できます。

この「まち」が今後どうあるべきか、どうなると良いか、どんな可能性があるかを解いたのが本書です。

プロキシミティとは「近さ」「近接」と訳されますが、あまり馴染まない言葉ですよね。修士同級生によると、イタリア語タイトルは「プロキシミタ」という最上級形だそう。なので「最小距離」と理解するのが良いみたいです。

東京に住んでいると息苦しさを感じるけど、地方の閉塞感も苦手だ…と思ってしまうような人にも、ヒントになる本です。
また、UXデザインやサービスデザインをしている方にもぜひ読んでもらいたいです。サービスを考える上で、市民や社会を顧客として捉えることは本当に良いのか、どうあるべきかが記されています。

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