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サマンタ・シュウェブリン『七つのからっぽな家』を読んだ

作家・円城塔が紹介していたので気になっていた南米の作家の短編集。

確かにラテン・アメリカ文学らしい不条理感もあるけれど、今村夏子や村田沙耶香のような日常や常識からズレたひとびとを描く現代日本の作家のような雰囲気もあり、南米文学に馴染みがなくても読みやすいんじゃないかと思う。

タイトルの通り、この本は空虚な家や家庭をテーマにした7編の短編からなる小説集だ。
といっても、家族間のよくある悩みが題材と言う訳ではなく、彼らが抱えている問題はどれも特殊。


例えば、他人の家に乗り込んで物を盗んだり壊したりする母を持つ娘。
全裸で過ごす両親の元に離婚した妻との子どもを連れて行く男。
死んだ子どもの衣服の庭にばら撒きに来る隣人。


この話の主人公は全員隣に引っ越してきてほしくない人物だし、恐ろしい異様な怪人が家に乗り込んでくるスリラー映画の怪人の方のような人物もいる。


サスペンスホラーだったら異常な来訪者に家をめちゃくちゃにされる主人公たちに感情移入するだろう。
でも、この短編集はちょっと違う。
読んでるうちにいつの間にか普通ではいられなくなってしまったひとびとの悲しみが手に取るように伝わってくる。

夫が去ってから、他人の家に乗り込んでめちゃくちゃにするようになった母を持つ娘の気持ちになる。
そうなった人間のことなんて考えもせず、綺麗な家でごく普通の家庭を築いていた人間の城に車で乗り込んで、シャワーカーテンにケチをつけて、砂糖菓子を盗む母にもっとやれと思っている。

家庭というのは扉を閉めたら別の国のようなものだと誰かが言った。
子どもの頃は家の中の世界が全てでも、社会に出て若干どうもおかしいぞと思ったこともかもしれない。

でも、世間や常識がわかるようになって、何が普通か異常か分別がついても、家族の味方をしたいときはあるだろう。

この本を読んでいるとき、自分たちはいつの間にか虚しくていじらしいおかしな家族の一員になっている。


短編の中では、妹が救急車で搬送されて誕生日を病院の待合室で迎え知らない男にパンツを買ってもらう少女の話の「不運な男」が好きだった。

子どもが無垢な存在として描かれていない話は何かいいなと思う。

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