Kiokavok

フクロモモンガは有袋類。ポケットの中でコトモをあたためます。百文字モモン歌ガは森のなか…

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フクロモモンガは有袋類。ポケットの中でコトモをあたためます。百文字モモン歌ガは森のなかを滑空してゆきます

マガジン

  • 百歌

    百文字くらいの自由なシーケンス 言葉のかたちです

最近の記事

眩しいもの

眩しいものがいっぱい差し込んできて なにかを思い起すことも願うことも忘れて 一枚の葉っぱになったからだを 眩しいものが通り抜けて わたしの色が投映される 目をさました白い石英と 眠りつづける黒い鉄の上に

      • 時鳥

        突然頭上を飛びこえてゆく鳥はおかえりと啼く 枝にひろがる黄緑色の葉叢はふたたび染まる布切れが歩いて来たことをよろこぶ樹海にすむ透明な時鳥は 声しかしらないうぶな男が懐かしい 験をあけるまえに光は頬を照らし ふりむくまえに風は背中を撫でる 最初に声をかけてくるのは いつも世界からで ねぼけたぼくは やぁ どうも はい  わかりません と相槌を打つ そしていくつかの質問をして 答えをもらえず それではまた明日と声をかけても その返事をぼくが聞くことはない 夢を見るまえに飴色

        マガジン

        • 百歌
          84本

        記事

          コッコ

          メンメもテッテも オミミもマンマも古代語なら コッコも古代語だろう コは現に在るものの座だ たとえあなたがひとりでいたとしても コッコは鳴いている コッコは呼びかけている ここに来いと ここをよめと あの頭上のツバクロの子のように

          母子性

          母をうしなったように 子が家出したように 性をうしなう なにものでもない そういうものであるために なにものかではある そういうものをあいするために

          螺旋

          高速に回転する盤のうえで 土の胚をとらえた指は 螺旋の軌道を描いて上昇する 太陽系の巨大な公転する盤のうえの 酸葉の塔は 螺旋の軌道を辿って上昇してゆく 流離と帰還をくりかえす わたしを襲う眩暈を乗せた宇宙船が どこか彼方でグルグル回っている

          振動

          気温の上昇に合わせて 草木は声を放ちだす ぶぶぶぶぶ すすすすす ぐぐぐぐぐ つつつつつ 揺らぐ世界 バイブレーション ああ、君の中にも

          若葉

          なにものにも染まっていない 無垢の、はじまりの画布というものが この若い葉のようであるなら 画家が存在する理由はなくなるだろう 筆よりもやわらかく微細になった指が 撫でるだけで 画布にとけていた形がその姿をあらわすだろうから

          農民の子

          あの茶色く陽に焼けて縮んだ躰をすり切れた白い作業着につつんだ 黒い染みに覆われた大きな頭蓋を帽子でかくした 農民のようであるにちがいない土の中に立つわたしを シャガールのような画家が倒立させて描いてくれるなら 雲たつ青い空にこの手をつっこみ 掻きおこし 掻きおこし 石クレのような衛星を 空に融けることのない願の切れ端を 糸クズを つまみだし 柔らかくほぐれた空のおくから ひかりの粒が芽吹くのを 膝をおってじっと待っているだろう

          農民の子

          となりの√

          音楽家はぼくに語った 算数に小数が現れたときの驚きと不安を 1のすぐ前に見えた家にいるはずの気安いお隣さんに 逢うためにたどる道がみえなくなった まわりに座っている友だちにはみえるのだ 1の隣にあるものが それをみえないのは自分だけ 誰にもうちあけられない音楽家がその後とった行動は ひたすら算数それから数学を勉強するというものだった その後、高校の机の前にすわった音楽家は 恐れていた質問を数学の教師からきくことになる 「1の隣はなんですか」という問いに 答えられなかった音楽家

          となりの√

          火星

          火星がみえる 夜が明ければ 右腕の軌道の人差し指のつけ根あたりに きみの犬歯が叩いた モールス信号の通信の痕が 赤くまたたいているのが 火星がみえる 夕べ打ち上げられたきみを乗せたロケットは もう到着しただろうか 火星の生活の建設基地に きみはきっと小さな抜け穴をみつけるだろう そして 白地に黒いブチの宇宙服を着たきみは 赤い砂のうえに横になって 喉を鳴らせている 火星がみえる 夜が明ければ ぼくがみえるかい リツ大佐

          ハナニラ

          とがった角とたいらな線が くっついた三角が ふたつ重なって 星になる とがつた感性とひたむきな平凡さが くっついた形が ふたつ重なって ハナニラが咲いた

          ハナニラ

          トラフ

          空にトラフをさがしている 天の牛と蛙をやしなう 青紫の色の籠る 空のトラフをみつめている 聳え立つ峰よりたかみにある 深き底を

          天牛

          木の姿が美であるまで外に後退させられて 木のカラダが材であるために年輪の外に追放されて 外にたつわたしが触れているのは 絵の中の木とテーブルと椅子 わたしが触れることができない木の芯を 天牛はつかむ 樹皮と年輪のなかにわけいり 樹液のさかまく渦の振動とかなしみと その木が燃やし続ける火の匂いをつかめるのは 天牛 あなたです

          野蒜

          その草の名を忘れていた 2文字か 3文字だった ネギやニラに良くにて 群れて生える道ばたの美しい曲線の その名を 歩きながら 浮かび上がる 「ム」 という音に捕われる ムクゲ ムグではない フキでもない ヌタにして食べる 摘んで匂えば強い香りの その名の草 猫が待つ家への帰路に その名に近づきつつあることを その庭の土に足が触れる瞬間に思い出すだろうことを 予感している そう 記憶は庭に埋まっていた その草の名はノビル 野蒜の焼きそば食べたい