【怖い話】共感漫画
※私が知る限りではありますが、この話はフィクションです。
大学を卒業し、就職から3ヵ月、やっと仕事に慣れ始めたころのこと。
そんな中でハマったのが、漫画だった。漫画と言っても、いわゆる出版社が出しているものじゃなくて、描きたい人が好きなように発信している、Twitterとかで読める漫画だ。
日常のあるある。
専門知識がある人の啓発漫画。
ただクスッと笑えるペットの可愛い漫画。
いろいろあって面白い。
仕事から帰るとき、さっと読めるのがなにより楽しかった。
そんなある日、仕事を始めてから4か月目という人の漫画を見つけた。
失敗したこと、間違えたことなど、自分が「分かる分かる!」と共感できる話がとても多かった。
(同じような職業かもしれない……)
そう思うと親近感がわいて、私はその人のアカウントをフォローし、漫画を追いかけるようになった。
ある日のことだ。
私は店長や先輩に大きな迷惑をかけ、お客様からお叱りを頂く、大きな失敗をしてしまった。
落ち込んで帰宅し、何となく、その人のアカウントを開いた。
「あれ?」
と、感じたのは、一瞬だけだった。その人もまた、私と同じような大きな失敗をして、落ち込んでしまったという内容の漫画だった。いいね!の他にも、コメントで『分かる!』『そうだったんだね』とか、慰める内容がたくさん来ていた。
まるで自分も、そう励ましてもらっているかのように思えた。
「……よし、頑張ろう」
その日から、私はその人のアカウントを見るのが楽しくなった。
お客様から褒められて嬉しかった日のこと。
美味しいランチのお店を見つけたこと。
ついつい、仕事じゃないのに外出先でお店の商品をチェックしたこと。
先輩に嫌な言い方をされて落ち込んだこと。
(本当に、自分みたい!)
イラストも上手で、話も面白くて。共感できて。
その人はすぐに、人気が出た。1本投稿されるとすぐ、1万RT以上になることも珍しくない。
いつしか私は、漫画のツイートにつくリプライを、細かくチェックする癖がついていた。
(あ、この人は褒めてる……へぇ、先輩の意見、味方する人もいるんだ)
何時からだろう。
その人の漫画は、私の送ってきた日常そっくりの内容になっていた。でも私はそのことに、何の違和感も抱けなかった。
だって、共感できている。
共感できているなら、きっとこの人は私とは違う存在のはず。
「あ、今日は会社の愚痴の話かぁ……ふふっ……」
笑いながら、私は呟く。
「同じ事、言うよね。分かる」
そこにある文章が一字一句同じであることを理解しながら、私はただただ、笑っていた。
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