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お客様のために高い卵を買う理由

「お一人様一パック限り 99円」

そんな広告を見つけてウキウキする朝が稀にある。
そう、卵一つで一喜一憂する世の中だ。

さてスーパーに行くと「高い卵」と「安い卵」が売ってある。高い卵はなんだか栄養が良いとか、自然に育てたとか、そうした付加価値があって高くなる。そのため、安い卵が不味いわけじゃない。

安い卵だってごちそうになる。

オムレツ、オムライス、かに玉、チャーハン、いり卵、お弁当のたまご焼き、ゆで卵、白身と黄身を分けてクッキーとプリンに仕立てたりもできる。

「高い卵」の何が良いか。ものによるが、レシピに使う個数を減らせるのだ。もちろん卵がメインの食事は減らしたら大変なことになるが、わざわざ黄味を1つ増やしたり、卵を多く使ったりすることにはならない。

それに、他の材料に金をかけるより、簡単に料理にコクが出る。結局高い卵を買っただけで、あとは安売りの商品を使ったってバレやしない。

確信を得たのは、まだ小学生の頃の話だ。

小さいころ、隣の家はチャボと烏骨鶏を一緒に飼っていた。田舎の小さな集落に暮らす定年退職した老人たちにとって、姦しい姉妹は世話焼きのしがいがあったのだろう。私と下の妹たちは、ずいぶん可愛がられていた。

毎朝、起きて犬の餌ついでに外に出ると、必ずと言っていいほど隣の家のお爺さんが待っていて、生みたての卵を手のひらにのせてくれた。それを家に持って帰って卵かけごはんにしたり、母に渡してプリンにしたりしてもらうと、それはもうびっくりするほどおいしかった。

スーパーで買ってきた卵が食卓に並ぶと、それが分かった。私の舌はその当時、生みたての卵にすっかり慣れてしまうくらい、毎日食べていた。今思い返すと、ひどく贅沢な話だ。

なんというか、スーパーの安い卵は、コクが今一つないのだ。

色で言えば、スーパーで買ってきた卵の方が、とてもきれいで鮮やかな色をしていた。今でも、見た目からすると、スーパーの卵の方が美味しそうだ。多分、隣の家のチャボや烏骨鶏のご飯が、残り物や野菜のごった煮を混ぜて作った飼料だったせいだろう。
黄味の色は薄く、白の多い黄色だった。

でも食べてみると、スーパーの卵は期待したほどの味がしない。コクがない。

高い卵も、ただ単に鶏の種類によって卵の色が違うとか、高栄養だったりするとか、そうした違いだけだと味は変わらない。しっかり運動した放し飼いの鶏の方が、コクがあっておいしいと思う。

そうした卵なら、卵黄を1つ追加するようなお菓子でも、全卵2個で美味しく焼けるし、アイスクリームやプリンも同様だ。茶碗蒸しや卵焼きも、ハッとするような味になる。

思い出の中の卵だからなのかは、分からない。

もうあの鶏たちもいなくなってしまった。狐に食べられたと聞いているが、真相は分からない。

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