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時々、DVDレンタル店員、閉店。

昨年春に卒業したDVDレンタル店員。このマガジンもそれと共に短期間で終了してしまったが、勤めていた店が閉店することになったので、そっと番外編を記すことにする。

もはやいつのことだかはっきり覚えていないが、コロナ禍の前、店を拡張することになった。コンパクトな店だったので在庫を把握してコントロール出来ていたのが良さだと思っていたが、在庫が2倍近くなり、何があるのかわからなくなった。その頃から棚づくりにあまり愛情が持てなくなっていたかもしれない。在庫をどうやって増やすかというと、閉店した店の在庫を安く買い取ったり、メーカーから買い取りではなくPPTという回転率で支払うシステムでこれまでの数倍の枚数を発注して増やしていく。しかしPPTの場合、期限が来たときに一定数は買い取ることになっている。大量に仕入れたので、それはかなりの金額になる。なので、この買取期限がこの店の存続を決めるのではないか、と予測していた。今年の秋がその期限であり、今年になってからずっといつ閉店になるか、戦々恐々としていたという。そして遂に閉店が決まった。閉店を知ったお客さんは「これからどうしたらいいんだ!」という嘆きのクレームやシリーズの途中で入荷が止まったことにショックを受けたりということもあったが、閉店間際になると「これまでありがとう」の差し入れやスタッフ全員に一輪ずつ花のプレゼントがあったそうだ。8年弱という店の営業年数は短いようだが、お客さんとスタッフが関係性を築き、サードプレイスになるには十分な時間だったのかもしれない。辞めて1年半経った今でも、思い浮かぶお客さんの顔がある。

監督別洋画の棚。洋画をよく知らないスタッフにはバックがしにくいと不評だったけど、
めげずにどんどん増やしてやったw
「こんな棚があるとは!」とずっと前から離れないお客さんがいると嬉しかった。  

閉店前に名残惜しくて、数回レンタルをしに行った。しかしなかなかタイトルが選べない。新作や準新作は配信でも見ることができるかもしれないが、権利が切れた旧作はもうどこでも見られないのでは、と思うと切なくてたまらないのだ。埋もれた旧作を掘り出して棚づくりをするのが働いていたときの一番楽しみだったので、そこによく登場させていたタイトルには特に愛着があった。結局、仕事で見る必要があった『イン・ハー・シューズ』、Spotify「ホントのコイズミさん」で何度も話題になって見直したくなったドラマ『マンハッタン・ラブ・ストーリー』、うちにあると思っていたら友達に借りパクされていた『マグノリア』しか選べなかった。自分が去ったあとでもずっとそこにあるように願っていたんだな、と改めて自分の気持ちに気づかされた。

同じ市内で案内できる系列店は残り1店になったという。修士論文の中で少し触れたニューヨークのレンタルDVD店は数年前に閉店していた。2018年に行ったイギリス・ブリストルの「20th Century Flicks」は自虐的なツイートをしながら、まだがんばっている。研究室の寄稿で少しそんなことを書いた

移り変わる映画のメディア的変容を実体験のノスタルジーだけでなく、これからも見つめていかねばならない。

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