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時々、DVDレンタル店員、卒業。 (3)

このマガジン、もう少し続けたかったのが正直なところだが、自分の怠慢のせいで3回で終わることに。というのは、6年半続けた「時々、DVDレンタル店員」を3月末で「卒業」してしまったからだ。

DVDレンタル店員になった経緯は(1)に書いた。「時々」でも6年半も続けてきたことは自分でも驚きだが、年々市場が縮小していくDVDレンタルを静かに見届けたい気持ちがあったので、途中でやめるのは残念でもある。昨年からのコロナ禍で、配信市場はサブスクを中心に更に大きくなり、劇場公開作品でもDVDレンタルに出さない作品が増えている(『サウナであるところ』も先日DVD発売はしたものの、レンタルには出してはいない)。全国的にレンタル店の閉店も相次いでいる。ここ数年、近隣店舗がどんどん閉店していったが、そこに通っていたお客さんはレンタルをすること自体をやめてしまった人の方がきっと多いだろう。2020年代のレンタルDVD店にはどんな魅力があるのか、卒業を前にそんなことを改めて考えてみた。

コロナ禍以前からミニシアターでリマスター版公開が増えていて、昨年も『エレファントマン』『海の上のピアニスト』『クラッシュ』『バッファロー'66』など挙げたらキリがないし、新作公開よりリスクが少ないということでこの動きは暫く続きそうだ。ここ最近の特徴は1980年代-2000年前後のリバイバル。ミニシアターやアート系と言われる映画の人気が高かった頃を支えていた40-50代をメインターゲットとしている。しかし、20-30年前の映画は古典でもなく中途半端で、かなりヒットしたか根強いファンがいると見込まれたものでないと配給会社が新たに配給権を買ったり、契約を更新したりしないので、劇場公開や配信で見つけることは難しい。そこで登場するのがDVDレンタルだ。DVDレンタル店が契約期間後に買い取っていれば、日本での配給権が切れた映画のDVDが残されているからだ。他のnoteにも書いたが、卒業を決めてからの2ヶ月ほど、配信になさそうなこの頃のDVDを見続けていた。『存在の耐えられない軽さ』『マイ・レフト・フット』『月の輝く夜に』『セックスと嘘とビデオテープ』『ぼくの美しい人だから』『ハンナとその姉妹』『カイロの紫のバラ』『リアリティ・バイツ』『キルトに綴る愛』『ドラッグストア・カウボーイ』『八月の鯨』『薔薇の名前』『ブリキの太鼓』などなど。殆どは当時観ている映画だが、驚くほど新鮮な気持ちで観ることが出来た。あの時代の映画特有のゆとりというか大らかさが、今となっては眩しくもある。そこに大人になるってこういうことかと思っていた自分がいたのを思い出した。映画は自分を映す「鏡」のようなもの。映画は変わらないから、自分が変わったことに気づかせてくれる鏡。一時期でも映画をよく観ていた人にはDVDレンタル店にある多種多様な鏡にたまには出会ってみるといいと思う。そして、まだたくさんの映画に出会っていない人には、今、映画をたくさん観た方がいい理由として伝えたい。きっと数十年後に鏡と出会える楽しみが待っている。その時にはDVDレンタルという形ではないかもしれないが、きっと形を変えて映画という体験は残っているだろうから。

店に勤めて2年くらいの間は、DVDレンタル店の利点を生かして、映画との出会いの場であり、映画を通じて人がつながる場をつくることを楽しんでいた。映画のコンシェルジュを売りにしていたので、タイトルもキャストもわからない映画を少しのストーリーから見つけ出したり、ジャンルを問わずジャケットの色だけで揃えた棚を作ったりしていた。オススメした映画の感想を手紙で頂いたりするのも嬉しかった。本の担当者と企画してイベントを組んだり、回数券システムをつくり、その特典として、コーヒーを飲みながらお客さんがDVDを選んでオススメしあったり、映画を語り合う場も楽しかった(自分がプライベートで新しいことを始めてしまったために、この場を維持することが出来なかったのは申し訳なかったが)。

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「まだレンタルってあるんだね」
と、言いながら、店を通りがかる人は多い。それでも、大きな近隣店舗がなくなってから、旧作を熱心に探すお客さんは増えた。「これはアマゾンにあるよ」と配信ラインナップと比べる姿も普通になった。それでいいと思う。
DVDレンタル店がこれからどうやって生き残っていくのか、現場で見届けることは出来なくなったが、死にゆく場ではなく、まだまだ可能性を秘めていることはコロナ禍での人の動きから実感したことだ。6年半いたあの場で映画とつながってくれた人たちに、映画を通じて私とつながってくれた人たちに感謝をしつつ、愛着あるあの場のDVDたちの活躍を心から願っている。


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