バイリンガル: Grosjean (1997) Complementarity principleについて
こんにちは。
今回は以下の文献を参考に
Language Dominance in Bilinguals by Grosjean 1997
バイリンガルの語彙量は、2言語のうち一方の言語に支配される傾向があることについて説明していきたいと思います。
バイリンガルが2言語を話す理由
まず、なぜ多言語環境で育つ子供がそれぞれ違う言語を習得するのかについて簡単に説明していきたいと思います。
母国語がそれぞれ異なる保護者に子供が育てられた場合、保護者の教育方針、家庭の言語ポリシーによっては環境が異なるかもしれませんが、だいたいの場合、子供はその保護者が日常的に彼らと使用する言語を習得していく可能性が高いです。
バイリンガル教育をしている保護者からすると、なぜ子供がそもそも2言語を話すのか?
ということよりも、どうやったら子供が2言語を話せるようになるかが気になってしまうかもしれませんが、そもそも2言語に囲まれた環境で育つ子供は何故それぞれの言語を話すようになるのか?について考える必要があるかと思います。
親、教育者としての視点より、まずは子供の視点を見ていきましょう。
Grosjeanの論文でも書いている通り、バイリンガル児は
・人生の異なる領域で、それぞれ違う人達とコミュニケーションを取る。そのコミュニケーションの目的の為に言語を習得します。
(Bilinguals usually acquire and use their languages for different purposes, in different domains of life, with different people. Different aspectes of life require different languages)
私が日本語を話すから、子供は日本語を学んでいる。という視点ももちろんありますが、子供は自分と関わりのある人間とコミュニケーションを取るために、言語を習得しているのです。
Complimentarity principle について
さて、ここからはGrosjeanが論文で述べたComplimentarity principleについてまとめていきたいと思います。
Grosjeanは、
バイリンガル児が全ての領域で2言語の完璧な語彙を習得するケースはほとんど存在しない。
と述べています。
上にも述べたように、バイリンガル児は基本的に、異なる人と異なる領域でコミュニケーションを取るために言語を習得します。
従って、上の図のように彼らが使う言語というのは、違う領域でそれぞれ異なる言語を使う為の語彙として脳内に保存されているので、ある領域においては2つの異なる言語の語彙が、ある領域においては1つの言語のみの語彙が保存されているということです。
例えば、保護者がスイスドイツ語と日本語を話す場合、食べ物について子供が話す時は両方の言語の語彙を使って表現するが、ゲームについて説明をするときは日本語での説明が多く、スイスの現地の幼稚園や学校について話す時はスイスドイツ語の語彙が多く、スイスドイツ語を使って説明する機会が多いなどというように、子供たちにとっても、知っている語彙と知らない語彙というものが、それぞれの言語で異なる。そして2言語の語彙が同等数になることはあまり無い。ということを述べているのです。
また、Grosjeanは
バイリンガルにはOne dominant languageが存在する
と今回紹介した論文で述べています。
バイリンガル児と聞けば、ある2つの言語を完璧に話せるといったイメージを持つ方もいるかもしれませんが、実際はある一方の言語に偏りがあるバイリンガルスピーカーのほうが圧倒的に多いということです。
まとめ
今回はGrosjeanの論文に書いてあるメインのポイント
・バイリンガルにはOne Dominant Languageが存在すること
・2つの言語の語彙を完璧にすべての領域で習得できるケースは稀なこと
についてまとめました。