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現代クライマー向け外岩6カ条

おはようございます。分子栄養学クライマーのKinnyです。

さて、仏教には、願行具足、という話があります。

 願いと行いの両方が十分に満たされると成就する

ということです。

逆に言えば、

 思いと行動の2つが揃わないと、成就しない

ということです。

■ 願 ”健全な市民クライミングの実現” です!

海外の岩場で登っている、一般市民クライマーたちは、

 ・5.10aテンションも、5.12aテンションもやっているのは同じこと
 ・誰だって低グレードから高グレードの順にステップアップする
 ・嫌がっている人、ビビっている人にリードを無理強いしない
 ・一般市民レベルのクライミングは、競技クライミングとは別話
 ・クライミングを楽しむ

ラオスで一緒に登ったトニーなんて、やりたくないリードを無理強いされている私を助けに来てくれたくらいです(笑)。

■ 昔はクライミングは承認欲求の場だったらしい

九州に来て驚いたのは、クライミングを一か八かで、いかに自分がならず者でかっこいいかをPRするためのもの、と捉えている人が多いことでした。

たしかにアルパインクライミングには、外的要素と言って、人間の都合ではどうにもならない場合のリスクがあります。代表的なのは、天候ですね。

しかし、フリークライミングというのは、落ちることが前提になっているクライミングですので、基本的には、落ちても怪我や事故にならない、ということになっているクライミングです。教科書にもそのように書いてあります。

ところが、現実の岩場では、そうなっていません。

■ 昔の新人と今の新人

また、昔と今では、岩場に、初めてやってくるクライマーの経験値が変わっています。

昔:山→沢→雪→岩→氷→フリークライミング、と成長して、オールラウンドクライマーがノーマルコース。ロープは、主に沢で出てきます。

今:クライミングジムからいきなり外岩。結果、ロープの使い方を学ぶ機会がなく、外ボルダーで入門。

このような違いがあり、指導者もいい加減な人が多いです。

■ 願と行の詳細

何のために → クライミング事故を減らすため

正しく理解 → 市民クライミングと競技クライミングは異なる

技術を学んで → 知識を普及する手段を得る = 行政のパイプと繋がる

実践する →  様々な手段で、事情を説明して回る

■ なんで自分の得にはならないのにやっているのか?

私は、クライミングで良い師匠に恵まれ、頼まなくても向こうから師匠がやってきました。

一例をあげると、2名の師匠のほか、故・吉田和正さんのクライミングスクールに行って、最後のビレイヤーとなりました。

自分一人が楽しく登っている分には、何にも問題がない。

とっても楽しかったので、ジムで会った人を岩場にお誘いしようとしたのですが、師匠らからOKが出なかったです。

平たく言えば、師匠らのお眼鏡にかなう人がいなかった、です。

その理由は?

「このボルトは、ペツル刻印があるハンガーが付いていても、ボルトはカットアンカーだ。ということは、施工が良くても、15kNしか強度がないな…。よし、ガンガン落ちるようなクライミングには耐えられないだろうから、テンション程度にしておこう…」

…というような知識に基づく知恵、言い換えれば、現実的な安全対策…が、ジム出身クライマーには発想できない、からです。

標題の写真は、異種金属3点盛りのボルトです。見分けられましたか?

グージョンとカットアンカーが見分けられなかったら、分かるはずがありませんし、分からなければ、落ちないように登る知恵も出てこないです。

じゃあ、ジム出身クライマーはどうしたらいいの?

ずばり、現代日本の岩場でのクライミングに必要な教えは

1)3ピン目を取るまではクライマーは、決して落ちてはならない

2)本チャン(マルチ)は、2グレード下げる

3)山の支点(ゲレンデであっても)を全信頼してはいけない 残置は信頼してはいけない

4)岩場のグレードを信頼してはいけない

5)ボルト配置が適正ではない課題を避けて、登らないといけない

6)ギリギリに迫っていいのは、人工壁のスポーツクライミングだけ

です。

■ 建前と現実  ”前時代的”岩場がほとんどです

外岩のボルトルートはスポートルートと呼ばれ、建前上、バンバン落ちながら登っていいという定義がされています。

しかし、それは信頼できるボルトがある場合のみ。現代の岩場では、ほとんどの岩場のボルトが、40年経過しています。しかも、当時のボルトなので、現代的な必要な強度がありません。しかも、ボルトとハンガーの組み合わせが異種金属、とか、ボルトそのものがカットアンカーとかです。

昔は、カットアンカーは許容されていたので、古いクライマーではカットアンカーが強度不足のボルトだという認識そのものがありません。日本の権威ある登山教科書である『高見へのステップ』にもカットアンカーによるボルトが、どうどうと安全な支点の事例として載っているくらいです。現代で、フリークライミングに使われるボルトは、グージョンです。

フリークライミングで、ギリギリに迫って落ちていい、という建前は、現実のものではない岩場が多いです。特にオーバーハングがない岩場です。

しかるに、現実の岩場では、”3ピン取るまで落ちるようなクライミングをしてはいけない”、です。

■ 海外では誰でも登れるように進化している

例えば、ラオスでは、例外的に、ボルト配置が極めて安全志向で、近くに打たれています。つまり、5cというグレードなら、5cを登るクライマーのためにボルトが打たれています。

国内岩場では、ケミカルにリボルトされた岩場であっても、ボルトの配置がそのグレードを登るクライマーのために打たれているとは限りません。5.12が登れる人が、5.9を作ると必然的にボルトは、安全と言えない配置になってしまいます。

また、安全なボルト配置は、登るクライマーのリーチによって変わります。

海外では、どんなリーチのクライマーにも安全なように、ボルトが打たれた岩場が登場しています。

が、日本の岩場はそうではありません。文句を言っても、今後10年以内に状況が変わる可能性は、ほとんどゼロです。

ならば、建前に拘るのではなく、現実に合わせた方針を新しいクライマーに指導するほうが現実的です。

実際、クライミングがメッカの山梨では、そのように指導されていたと思います。

それでも、無知なクライマーによる事故が完全に防げていたとは思えず、無防なチャレンジで事故る若いクライマーは後を絶たないようでした。

ただ、だとしても、事故は、中山尾根とか、阿弥陀南稜とか、本格的なアルパインの入門ルートであり、ゲレンデ、つまり練習の場である外岩ではありませんでした。アルパインの入門ルートであれば、ジムデビュークライマーが事故るのは、無知も仕方がないなという、高度な場所でした。

しかし、九州では、腰椎骨折などの致命的事故が起こっているのは、四阿屋とか、比叡のような、”ゲレンデレベル”の場所で、です。

この記録は、私の2018年4月22日の四阿屋でのグランドフォールを目撃したときのものです。

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グランドフォール

今日は四阿屋の岩場でグランドフォールをみました。

インディアンフェイスというルートで、2ピン目から3ピン目までがランナウト気味、つまり、

(最終クリップから出ているロープ長)と(それより下で出ているロープ長)が、ほぼ同じくらいになっていました。

背の高いクライマーを同じくらい背が高く、細身のクライマーがビレイしていたのですが、たぶん、体重は釣り合うくらいですが、クライマーが落ちると、ロープの伸びがあるので、結局伸びの分でグランドフォールしていたと思います。腰を打ったようで、病院へ行く、ということでした。

岩場でグランドフォールを見たのは、初めてです。

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後日聞いたら、腰椎骨折の大けがでした。しかし、情報は公開されませんでした。事故情報の共有もありませんでした。

この事故の原因は、課題に与えられたグレードが適切でないため、です。

5.10bではなく、5.11であると書かれている

別にジム出身クライマーでなくても、5.10bとトポに書かれていたら初心者グレードなので、誰でも取り付いてしまいますよね。

これらの事情により、国内岩場では、一般に言われる誰が見ても無謀な人だけでなく、普通に慎重に登っているクライマーまでもが、取り返しのつかない重大事故を回避できないということになっています。

異様に、グレードを辛くつける習慣は、おそらく競争心的なものによると思われます。

ボルト位置の問題、つまり、適正ボルトではなく、ボルト間の距離が遠い問題は、全国で共通しています。

これはリーチの問題が、多くのクライマーに理解されていないためです。誰にとっても、難易度は同じである、という間違った前提に立っていて、ジム上がりではないクライマーでも、そのことを理解していません。

背の高いクライマーにとっての5.10bは、標準身長のクライマーにとって5.11です。さらに小さいクライマーには、5.12になりえます。

世界的トップクライマーであるヘイゼル・フィンドレイが動画を出していますが、その点について語られています。国内では、なかなか理解されません。

ボルトの配置が適正でない場合、正しくビレイしていてもランナウトしていれば、落ちればグランドフォールになる。

そのような、ルートの作りであるために、適正にビレイしていても、落ちれば、この事例のように腰椎骨折の大けがに遭うことになります。

その原因は、クライマー側の無知を有知に変えてやる、指導者側の一種の手薄さ、があると思います。指導者側が手抜きをしている、という意味です。

なぜなら、私はクライマーとして最初から、「外岩では安易に落ちてはいけない」と教わったからです。

逆に、もっと落ちろ、なんて教わったことはありません。

つまり、”3ピン目取るまでは決して落ちてはいけない”、とか、”マルチでは2グレード下を登る”、ということを明示的に教えることです。

■ クライミングは楽しむために登るもの、自慢するために登るものではない

楽しくなかったらクライミングではない!なぜなら、クライミングは余暇、レジャーだからです。楽しく登る=上達の秘訣、でもあります。

そもそも、自尊心を守るために登らなくてもいいのです。すべての人は存在だけで生きる価値があるからです。

それよりも、クライミングは、過度に集中を要求する活動なので、他がおざなりにならないように気を付けないといけません。

■ 事故を減らす

クライミング事故のすべてが無くなり、すべての人を救うのは無理だとしても、

”3ピン目を取るまでは決して落ちてはならない”という教えを普及する

ことで、多くの人が事故らず済むような気がします。

JFA発刊のフリーファンの『安全ブック』を精読しましたが、あの書き方では、たぶん、現代のクライマーは、どう行動に落とし込んでいいのか?分からないのではないかと思います。

国内岩場の現状を行動に落とし込む、というのは、

 ”3ピン目を取るまでは決して落ちてはいけない” 

など、具体的にどうすればいいのか?を教えた内容のことです。

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