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女流プロ雀士解体新書 和泉由希子(文・早川林香)

【アイスドールはあたたかい】

皆さんは和泉由希子という女流プロをご存知だろうか。
もし麻雀界に居てその名前を知らないのであれば、申し訳ないのだが流石にわたしはあなたの事をにわかと言わざるを得ない。
今すぐブラウザバックしてGoogleで和泉由希子を検索して頂こう。
坊主頭の女性が出てきたって? 問題ない。それは間違いなく和泉由希子だ。

わたしが和泉由希子の事を初めて知ったのは恋愛バラエティ番組。
その時に「和泉」の読みを知った。カッコイイ。革新的だ。
「泉」で「いずみ」と読めるのにわざわざ「和」をつけて「いずみ」と読ませる。そんな粋な読み方をわたしは他には知らない。「night」の「gh」と似ている。「hong kong」の「ng」とも似ているがこちらは少し違う気もする。
つまりめちゃくちゃカッコイイ苗字だ。生まれ変わったら和泉になりたい。もしくは東雲になりたい。響きがカッコイイからだ。

和泉由希子はそのクールな見た目とは裏腹に非常に愛情が深い女性である。
それに破天荒で、繊細な一面もある。知れば知るほど彼女の魅力にどっぷりとハマってしまう事だろう。
読者の皆様、心の準備はいいだろうか。

【心を閉ざした幼少期】

和泉由希子は他の家庭と比べると裕福な家庭だったと語る。
頑固一徹、昭和な父親と、そんな父を支える控えめで優しい母。そして兄が1人。そんなよくある平和な家庭。

父母、兄とともに

和泉由希子は幼い頃からバレエ、ピアノ、スイミング、そろばん、学習塾とたくさんの習い事をしてきた。
しかしどれもあまり熱中出来ず、学習塾で出会った友達と遊ぶ様になっては、成績を落とした。
それでも母は怒らなかった。和泉由希子がやりたいように、健やかに伸び伸びと育って欲しかった。

ある時母が脊髄小脳変性症という病気になった。
この病気は、何らかの原因で小脳が萎縮し、そこに存在する神経細胞が壊れていくもので、身体を動かすことが次第に困難になっていくという病気だ。
その日から和泉家の生活は一変した。
父は母のことを大声で叱責するようになった。病気を持つ妻の事をみっともない、恥ずかしい、と責めたてる。
大声を出す父に恐怖し、母を庇う事ができなかった。

そんな生活が続いていた頃、和泉由希子は学校でいじめのターゲットにされていた。
大きな声を出されると臆してしまって動けなくなってしまう。嫌な事をされても強く言い返す事ができずにいると、いじめはどんどんエスカレートしていった。無視される、教科書に落書きをされる、校庭で服を脱がされる、今となってはどれも思い出したくない酷い思い出しかない。

このいじめは中学校の3年生まで続いた。
ある時、溜まりに溜まった鬱憤が遂に爆発した。和泉由希子とて1人の人間である。傷つく心がある。居ても立っても居られなくなって、いじめの主犯格の子を殴った。大声で、自分でも何を言ってるかわからないような声で。手には酷い落書きをされた教科書。それで思い切り殴った。
その時から和泉由希子に対するいじめは止まったのだ。
あっけない終わりに肩透かしを食らったのを覚えている。

【新しい生活、高校デビュー】

高校は誰も和泉由希子の事を知らない所に行きたかった。片道1時間かけて通う遠くの高校を選んだ。
元々は明るく自由奔放な性格だった。闇の中学生時代を終わらせたかった。新しい人間関係と新しい環境でリセットするんだ──
高校ではソングリーダー部に入り、日々練習に明け暮れる日々。強くてかっこいい先輩に全国大会に連れて行ってもらった事もある。

その頃初めて恋人ができた。後に発覚する事になるのだが彼には既に恋人がおり、いわゆる二股というやつだった。
彼女から電話が来ればそちらを優先されてしまう。それでもよかった。どうしても彼が好きだった。

ある時母にこう言われた事がある。
「わたしの病気はあなたにも遺伝してしまうかもしれない。だから──」



和泉由希子はその時から好きな様に生きる事にした。いつか母と同じ病気になるかもしれないなら、それなら好き勝手生きていきたい。
周りになんと言われようと。
そう、決めた。

【麻雀プロへの道を駆け上がる事に】

短大に進学してからは、麻雀好きな先輩と知り合ったことがきっかけで麻雀をする様になった。
もっと麻雀に触れたくて、雀荘で働く事にした。

働いた雀荘では、和泉由希子にとってとても心地のいい空間だった。
一緒に働いていた先輩が最高位戦プロ麻雀協会の所属プロだった。(すでにプロは引退済み)
彼女の立ち振る舞い方、テキパキとした仕事ぶり、そして何より人柄が魅力的だった。
一緒に働いていくにつれ、こんな素敵な先輩になりたい、麻雀プロってかっこいい。そんな気持ちが抑えきれなくなった。そして遂にプロ試験を受けようと決めた。
どうやら調べてみると、最高位戦プロ麻雀協会のプロ試験は終わっていて、次に早くプロ試験を受けられるのは日本プロ麻雀連盟だという。
すぐに応募した。

結果合格。和泉由希子は麻雀プロとしてデビューする事になったのだ。
宮内こずえプロは一期上の先輩だが、気さくに話しかけてくれ、そして意気投合。
当時は女流プロも少なく、そのルックスと奔放な性格が周りに評価され、デビューしてからすぐに名前が売れた。「るみあき」に対抗して「こずゆき」で仕事が来る事も多かった。

【“あいのり”に出演】

ある時ふと見ていた恋愛バラエティ番組「あいのり」。なんと出演者を募集しているという。

ふーん。
募集してるのか。

…出たい。
出てみたい。
いや。どうしてもこの番組に、出たい。

やりたい事をやれる内に、思い立ったら即行動。それが和泉由希子だ。
当時は珍しい麻雀プロという職業が番組側に評価され、20000分の1というオーディションに合格。
そしてあいのりメンバー達と世界各国を回る日々が始まった。目に映るもの全てが新鮮で胸が高鳴った。カメラがある事も忘れて楽しんでしまうほどだ。

そして「和泉」は「田上くん」に告白するも、その想いは届かず撃沈。1人で帰国する事になった。
実際はあっという間の一ヶ月半の旅だったが、地上波で半年間も放送していた番組に出演していた事になる。和泉由希子は恋人を手に入れる事は出来なかったが、和泉という名前、そして麻雀プロという職業が多くの人に知れ渡り、圧倒的な知名度を手に入れた。

(冒頭にある通り、当時麻雀を知らなかったわたしですら和泉の名を知っていたほどだ)
そして麻雀プロ和泉由希子は正に順風満帆、一気にスター街道をのし上がっていく事になる。

【和泉由希子、母になる】

その後10年ほど人気の前線を走った。
そして和泉由希子はひょんな事から出会った男性と恋に落ち、そして愛し合った結果一つの小さな命を宿した。
母は数年前に亡くなっている。
頑固一徹で怖かった父。そんな父に2人で挨拶をしに行く事にした。父に会うのは久しぶりだ。
どんな顔を、するだろうか。

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