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「便秘、便漏れについて」

皆様こんにちは。今回のすくナビの担当は、おなかの病気担当の近藤宏樹です。
 
今回は“教えて!近大先生〜おなかの病気編”です。小児科の外来でよくいただくご質問にお答えするシリーズです。 

今回のご質問です。

「6歳の男の子です。ときどきパンツに便が出ていたり、汚れていたりします。病院で検査をして調べた方が良いですか?」

早速ですが、結論です。

「便秘症の可能性が高いです。病院で検査してもらいましょう!」

その理由について5つにわけてお話しします。

1.      便秘には様々な原因がある

2.      便秘をこじらせると悪影響が大きくなる

3.      良い治療法がある

4.      トイレは楽しく、姿勢良く

5.      良い習慣を身につけよう

それぞれについて詳しく説明していきます。

1.便秘には様々な原因がある

排便回数が週に2回以下だったり、週に1回以上の便失禁(便が漏れること)があると便秘とされますがあくまで目安で、この子のように排便がある程度あっても便秘のこともあります1)。知らない間に直腸(大腸のうち肛門の上の部分)に便が溜まり塊が出来て、便の塊の先の部分が下着とこすれて落ちたり、塊の周りの便が溶かされて漏れてきたりします。こうなってしまうと、一旦、ディスインパクション(便塊除去)しない限り、便秘薬も便秘に良い食事も効果が出ません。
また、慢性便秘症の多くは、外科的・内科的基礎疾患のない慢性機能性便秘症ですが、便秘の中には、肛門の形状や腸管の神経、骨盤臓器に異常がある外科的治療を要するもの、甲状腺機能低下症などの内分泌の異常によるもの、自閉症や注意欠陥多動性障害など精神や神経によるものなどが潜んでいる可能性があります。ですから、安易に判断しないように気を付けましょう。

2.便秘をこじらせると悪影響が大きくなる

便秘は知らないうちに始まります。きっかけは、ミルクから離乳食に変わる時期、胃腸炎で下痢が続いたあと、トイレトレーニングでのつまずき、水分摂取不足など様々です。便秘が長引くと悪循環が生まれ、さらに困ることになります(図1)。便秘をこじらせると排便時痛や肛門出血、便漏れ、悪臭、腹部膨満、食欲低下で、日常生活が困るようになり、さらに、夜尿症の原因となったり、イライラや多動、学習障害の原因となったりと腸以外の問題も出て来ます。また、直腸が拡張してさらに便意を感じにくく排便機能が育たたないため、一生便秘で苦しむことにもなりかねません。

図1 便秘の悪循環(文献1より改変)

 3.良い治療法がある

前述しましたが、治療の始めに便塊をディスインパクション(便塊除去)することが大切です。便秘薬としては昔から酸化マグネシウム(カマグ)やピコスルファートナトリウム(白湯に何滴か落として飲ませるもの)、整腸剤、グリセリン浣腸などが一般的に使われてきました。最近になって2歳以上の小児から使えるポリエチレングリコール製剤が承認され、より便秘の治療がやりやすくなっています。液体に溶かして飲ませる薬で、白湯だと少し薬の味がしてしまいますが、乳性飲料やジュースなどに溶かすと飲ませやすい薬です。便に含まれる水分が増え、便が出しやすくなります。下痢になれば量を自由に加減できるので、調整もやりやすいです。
グリセリン浣腸も有効で、前に述べた通り自力で排便できず直腸が拡張して便意が感じられないようなときは、はじめは毎日浣腸をして、しだいに減らしていくことをよく行います。便秘が頑固でグリセリンでも効果が得られなければ、オリーブ油で浣腸することもあります。豚まんは「ある時」が嬉しいですが(笑)、直腸は「無い時」が大切です。直腸が空の状態を毎日作ると、便が来たときに再び便意を感じられるようになり、自力排便が戻ってきます。
治療が上手くいくと、排便回数が増え、便形状が改善します。便形状はブリストル便形状スケール(図2)を用いて表現します。

図2 ブリストル便形状スケール(一部改変)

4.トイレは楽しく、姿勢良く

まずは、毎日お世話になるトイレを楽しい空間にしましょう。以前、私の外来に通っていて、いよいよ状態も良くなり外来終了間近の女子大生がいました。ようやく薬も止める事ができたのですが、便秘が再発しており、そこでピンと来て聞いてみました。「実はトイレという空間が怖くてイヤで、ついつい我慢してしまっていた」と告白してくれました。このように、狭い空間が怖い人、便器に座るのが嫌いな人など様々な理由でトイレが嫌いな人がいます。トイレトレーニングの時期なら部屋でリラックスした状況でおまるに座ってさせても大丈夫です。小児期なら好きなキャラクターで飾ったり、音楽をかけたり、良い香りをさせたりして、トイレが子どもにとって楽しい空間となるように工夫しましょう。薄着になる春から夏にかけてが、時期的にやりやすくてお勧めです。
次に姿勢ですが、身体は前傾姿勢で、足はついた状態でするのが良い姿勢です。ロダン彫刻で有名な「考える人」の姿勢です。知らない方は是非、検索して本物を確認してください(笑)。おまるなら丁度良い姿勢になりますし、洋式トイレなら小児用便座と足台を用意し、くれぐれも足が着かず不安定になったり身体が反り返らないように注意しましょう。

5.良い習慣を身につけよう

近年、慢性的に水分摂取が不足することにより、起立性調節障害や便秘症となっている方が増えている印象です。適切に水分摂取させることは重要です。1日の必要な水分摂取量は、体重1kgあたりの水分量として、乳児:120~150ml、幼児:90~100ml、児童:60~80ml、成人:40~50mlとされていますので頑張って摂らせましょう。また、整腸剤やヨーグルトなどのプロバイオティクス、食物繊維を摂らせることは、人によって効果があるとされています1)。ただし食物繊維は便の量も増やすため、便貯留が改善してからでないと逆効果となりますのでご注意下さい。おなかが痛いとき、おへそを中心にひらがなの「の」の字を書くようにマッサージしてあげると大腸の運動を助けることになり、腹痛が楽になります。
 
近畿大学病院小児科では「健康について知ってもらうことで、こどもたちの幸せと明るい未来を守れる社会を目指して」をコンセプトに、こどもの健康に関する情報を発信しています。これからもよろしくお願いします。

近藤 宏樹

参考文献:
1)小児慢性機能性便秘症診療ガイドライン 日本小児栄養消化器肝臓学会 日本小児消化管機能研究会 2013年 診断と治療社


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