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「出生前診断って何?」

皆様こんにちは。今回のすくナビの担当は、循環器担当の今岡のりです。
 
今回は“教えて!近大先生〜胎児編”です。小児科の外来でよくいただくご質問にお答えするシリーズです。

今回のご質問です。

「38歳です。不妊治療でようやく子供を授かりました。私の年齢のこともあって、赤ちゃんに異常がないか心配です。ネットで出生前診断というものがあることを知りました。どんなことがわかるのでしょうか?」

早速ですが、結論です。

「出生前診断では生まれる前の赤ちゃんの内臓や体の異常、人間の設計図と言われる染色体のタイプなど、生まれつきの病気や、出生後に医療を要する特徴がないかを調べることができますが、全てがわかる万能の検査ではありません。」

近年話題のNIPT検査も含めて順番にお話していきますね。

1.     エコー検査で行う「内臓や体の形」を調べる検査

2.     「染色体」を調べる検査

3.     NIPT(非侵襲性出生前遺伝学的検査)でわかること

1. エコー検査で行う「内臓や体の形」を調べる検査

エコー検査では、赤ちゃんの頭や手足、心臓やお腹の臓器などに形態の異常がないかを調べます。通常の検診ではスクリーニング検査と言って、異常があるかないかを見ています。出生前検査では、より詳しく知りたいご希望がある方や、スクリーニング検査で異常を指摘されて詳しい検査が必要と判断された方に、専門家がエコー検査を行い診断します。例を挙げると、赤ちゃんの首の後ろの浮腫の厚みを調べたり(専門用語でNTと呼びます)、心臓の形や血液の流れ方が正常かどうかを検査したりします。

エコー検査

2. 「染色体」を調べる検査

染色体はよく人間の設計図に例えられます。染色体という設計図に基づいて人間が作られるのですが、その設計図に大きな、あるいはちょっとした間違いが見られることがあるのです。設計図が「ちょっと滲んで見にくい」程度であれば、あまり問題にはなりませんが、左右が逆とか、大きな誤りがある設計図で人間が作られるとさまざまな不都合が生じ得ます。その染色体の間違いの有無を出生前に調べることができます。検査には、結果から「診断が確定できる検査」「診断が確定できない検査」とがあります。
診断が確定できる検査(確定的検査)には、絨毛検査羊水検査がありますが、いずれもお母さんのお腹に針を刺して、胎盤の一部である絨毛や羊水を取って染色体の異常や遺伝子疾患を診断します。針を刺す検査なので、破水や感染などの合併症があり流産のリスクも少なからずあります。
一方で診断が確定できない検査(非確定的検査)には母体血清マーカー(お母さんの血液で検査)やコンバインド検査(お母さんの血液と超音波検査の組み合わせで検査)があり、お母さんの侵襲が少ない反面、正常な胎児が異常と判定される偽陽性が多く精度が低いことが弱点です。一方、2013年から開始されたNIPT検査は精度も高く、お母さんの血液検査のみでできるため注目されています。

染色体

3. NIPT(非侵襲性出生前遺伝学的検査)でわかること

では、新型出生前診断とも呼ばれるNIPTでどんなことがわかるのか、NIPTにひそんでいる危険性にも少し触れたいと思います。
NIPTでわかることは、21トリソミー、18トリソミー、13トリソミー3種類の染色体異常の有無です。原則的に実施認定を受けた医療機関のみが行える検査です。お母さんの血液中にある赤ちゃんのDNA断片を分析して検査を行います。結果は、陰性、陽性で判定されますが、まれに判定保留ということもあります。採取した血液中のDNAの量が少ない場合や、飲んでいる薬の影響などによるようです。精度が高い検査ではありますが、確定的検査ではないので、陽性や判定保留が続いた場合は、確定的検査として羊水検査を受けることを前提としています。
海外ではこの3つ以外の疾患を同時に調べる国もありますが、日本では学会等の指針により、認定医療機関では3つだけしか調べません。その理由は、同時にたくさんの病気を調べようとすればするほど、正常なのに異常と判定される偽陽性が増えるためです。東京駅で大阪から来た人だけを見つけたいと思ったらどんな質問をしますか。「難波から心斎橋まで徒歩で何分?」に答えられる人は高い確率で大阪出身者でしょう。でも、近畿二府四県の出身者だけを見つけ出す質問は難しく、もし「近畿の四県は?」と聞けば、正解する人の中には東海や北陸出身の人だっているはずです。探す相手が増えれば増えるほど目標以外の人も引っかかってきやすくなるのです。また、若い妊婦さんを対象とした場合も偽陽性が増えます。35歳未満の若い妊婦さんでは、胎児の染色体が21トリソミーである可能性よりも羊水穿刺によって流産になる可能性の方が高いくらいなので、羊水検査を前提としたNIPTはお勧めできません。
近年、NIPTは侵襲が少なく高精度の結果が得られることで普及してきましたが、一方で無認定施設でのNIPT件数の増加が問題視されています。無認定施設がNIPTを行なっても法律違反ではないのです。出生前診断が全ての異常がわかる万能の検査ではないと言いましたが、21トリソミー、18トリソミー、13トリソミーの3つの染色体の異常は、たくさんある生まれつきの病気のうちの1%未満に過ぎません。ところが一部の無認定施設ではNIPTで胎児の疾患がすべてわかるかのような謳い文句で検査を勧め、高額で海外の検査会社へ検査が依頼されています。返ってきた検査結果についての説明も不正確であったり、曖昧であったりして、混乱されるご両親もおられます。
出生前診断は、赤ちゃんのご両親がその検査についてよく知った上で十分に考えて、検査を受けるか否かを選択していただく検査です。
出生前検査について知るためにも、検査前と検査後のカウンセリングはとても重要です。検査を受けるかどうかを悩んでおられるご両親は、まずはかかりつけの産婦人科の先生に相談してください。
検査を受けて、万が一、赤ちゃんの異常を指摘された場合は、その異常がどのようなものなのか、十分な知識と経験を持っている医師の診察を受けましょう。近畿大学病院ではNIPT基幹施設登録を申請し、2024年4月から臨床遺伝専門医、臨床遺伝カウンセラー、出生前コンサルト小児科医らを揃えて万全の体制でNIPTを開始します。また、小児科では胎児心臓病外来を行っています。かかりつけの産婦人科の先生や出生前診断で、赤ちゃんの心臓の異常の可能性を指摘された方は、当院の胎児心臓病外来を受診してください。
最新のエコー機器で胎児心臓エコー認証医が綿密に検査を行い、今わかっていること、そこから予測される出生後の経過などを、ご両親に寄り添いながら丁寧にご説明いたします。
また、受診の希望はないけど、ご質問やご意見などがあれば、このブログにコメントをいただければ「すくナビ」を続けていく上でとても参考になるので、どうぞよろしくお願いします。
 
近畿大学病院小児科では「健康について知ってもらうことで、こどもたちの幸せと明るい未来を守れる社会を目指して」をコンセプトに、こどもの健康に関する情報を発信しています。これからもよろしくお願いします。

今岡 のり


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