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『新宿駅前でスーツを着て突っ立っていると起こること』

20240421


 つい先日、新宿駅前でスーツを着てしばらく立っていなければならないことがあった。

もちろん、自分の趣味ではなく、一つの仕事として任されており、具体的には、夢を抱いて式に参加する若人に案内板を持ちながら会場へ誘導する役割を担っていた。

 
 しかし、新宿駅前という土地柄もあってか、僕に話しかけてきた人の半分以上は外国人観光客かどこか地方の訛りの混じった日本語を話すおじさんやおばさんで、全員行き先に迷っている人たちだった。
 
 とにかく、新宿からの乗り換えや目的地までの道を聞かれまくった。


 
 金髪で背が高く、一人旅をしているように見えた外国人の青年は、電車で富士山の方面へ行こうとしているようだったが、乗り換えの場所に迷っていた。

スマホの画面を見せながら英語で話してくれたが、改札の外に出てきてしまっているし、何と言っても乗り換えを英語で案内することは僕にはできない。その後も何人かの外国人に乗り換えについて聞かれたのだが、僕はそれら全ての人をみどりの窓口に強引に流し込んだ。
 
「あ、ちょ、たぶんそこで聞けば分かると思います。」
 
みどりの窓口を指さしながら、外国人に通じるわけもない情けない日本語をあの日はどれだけ口にしたことか。
 
Can you help me?
 
Yes!
 
Where is @;:[:]@/?(大江戸線に乗り換えて表参道に行きたい旨をスマホの画面から理解した)
 
「あ、ちょ、たぶんそこで、聞けば分かると思います。」
 
 みどりの窓口を指さして言ったが、その女性は真顔でどこか納得いかない表情。
 
Ok! No problem! No problem!
 
なぜ、Can you help me?と聞かれてYes!と答えてしまったのか、あの瞬間、僕はパワフルで薄着な外国人観光客たちから確かにちょっと嫌われたと思う。

 
 その後、アジア人風の若いカップルが高島屋に行きたいと、これまた英語を話しながらスマホで高島屋の写真を見せながら声をかけてきた。

僕はずっと東京に住んでいるものの、正直、都会の地理には全く詳しくなく、新宿の高島屋がどこにあるかすぐには示せなかった。スマホで検索してみたりしたが、うまく説明できず、僕は
 
Let's go!
 
と言って、少し離れた場所で同じ役割を担っていた社交的すぎる同期のもとに彼らを連れていき、バトンタッチした。

幸いなことに、高島屋の場所をすぐに案内できる人達がいて、明るすぎる同期たちは、Follow me!とか言って、そのカップルを高島屋まで連れて行ってくれたりした。

そのカップルは突然現れた若いスーツ集団の溌剌とした優しさに戸惑っているようにも見えたが、そんなことより僕は同期の心強さを再認識していた。

 
 それ以降、僕は自分で案内できる行き先以外を聞かれたときは、その人たちを同期のもとに連れていき、
 
「この人高島屋に行きたいみたい」とか「なんかダンスクラブ?みたいなところに行きたいらしい」とか、ほぼ全てを同期に託した。その全てのミッションを同期はクリアしてくれている様子で、やはり心強かった。


 
 それでも、僕が立っている場所のせいなのか、その後もいろんな人に話しかけられ続けた。

東北の訛りでゆっくりしゃべるおばさん二人組には、「ちょっとお伺いしていいですか、あの、バスターミナル新宿ってどこですかね。(自ら反対側の大きい建物を指さして)あ、あれか」と僕が話すまでもなく、バスタ新宿を自力で見つけ出していたり、

明らかに関西からきたおばちゃんに「メンズ館っていうところってどこか分かるう?おばちゃん、行ったことなくてわからへんね~ん、ごめんなあ~」僕もメンズ館に行ったことないですとは言わず、スマホで調べると、道案内するのも少し難しい。新宿3丁目駅から行った方がわかりやすそうだったので、それだけは伝えた。

 
 それからも、高島屋を目指す老夫婦や、グーグルマップを紙に印刷してどこかのビルを目指すおばさんなど、本当に色々な人に道を聞かれ、同期に頼ったりしながら、何とかその日の役割は終了した。


 
 もし、あの日僕がスーツを着ていなかったら、
 案内板を持っていなかったら、
 ずっと下を向いていたら、
 あそこに立っていなかったら、

あの人達は誰に道を聞いて、電車の乗り換えをしたり高島屋に行ったりしたのだろう。

 
 そう思うと、あの時少しでも誰かの役に立とうとしていた自分や同期を労いたいと思うと同時に、久しぶりに人のために何かをしている気がして妙な充実感に浸っていたことを思い出す。

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