ギリア(詩)

 花を飾る。そのために朝の町を歩く。仕事に向かう彼女を見送りがてら無人販売の花屋に寄ろうという算段だ。改札をくぐりダラダラと歩いて行く彼女の背中。手を振りながら私は踵を返し、家を目指す。今日は私が休みなのだ。
 花屋にきてみるとまだ開いてない。11時から開店との看板。また後で来ようかと思い歩き出すと、いつものバーの髭のマスターとすれ違う。マスターは目がほとんど開いてないような状態で自転車にまたがっている。マスターに会うのは3.4日ぶりだ。深夜、友人の女性と口論をして最後、「お前は一生そこに囚われてろ!」と捨て台詞を吐いて店を出たあの日、それ以降私は彼の店行けてないのだ。その夜私は、もう2度と彼の店にはいけないし、彼にも友人であるその娘にも会うことはないのであろうと思っていた。そのぐらい致命的に私は間違ったと思っていたのである。
 「おー、〇〇くん」
「こないだは、すいません、今帰りですか?」
 バツが悪そうな顔を私は作る。作るというのは私が本当にバツが悪いのか、演技としてそのように整合性を整えているのかがわからないゆえの表現である。
 「おーん、いま帰りー、うちの店周年でさあ、これから寝るのよー」
「そうなんですね、こんな時間まで」
「大変。大変だよ。じゃあ〇〇くんまた!」
そういいながらフラフラと髭のマスターは自転車を漕いで行く。マスターには暫く店にいけないとメッセージを送っていた。(また)という言葉の嬉しさは私の予想を上回るものであった。
 一度家に帰宅し、時間を見て再び花屋へ。今度は道で喫茶店の店主がいそいそと看板を表に出している。こちらに気付き、ニッコリと笑いながらこちらに顔を向ける。私はダラダラと近づく。
 「良い天気ですね」
わざとらしい笑顔で私に店主は話しかける。
「今日はまたどちらに?」
「いやあ、凧揚げ見にいくんですが、その前にちょっと。すぐにちょっと寄るかも」
「お待ちしてますよ!」
 軽い会話を交わして、花屋に。2月に来た時とは花の種類も変わっている。小さく青い花をつけたブーケを気に入り、500円玉を投入し持ち帰る。忘れていたが今日は雲ひとつない快晴である。微風に花は揺れている。
 花瓶はないので、ビールグラスに花を飾る。
(名前みとけばよかったなあ、この花なんて名前なんだろう)
 部屋に花を飾ろうと思うのは部屋を片付けたからである。随分とスッキリして、殺風景なような気がしたからだ。
(ほう、ギリア?かな?)
 時期と画像から花の名を割り出そうとするが少し心許ない。そうかもしれない、違うかもしれない。ただそんなことはどうでもいいのである。花の名前より、私は未だ解決しない様々と対峙しなければならない。私は何も始めていなければ、何も終えていない。名前によって知った気になるにはこの世界は複雑にできているのである。常に心は見続け、聞き続けるのだ。これは詩である。詩は何ひとつ確定を見ない。何ひとつ名付けない。ただ運動があるだけである。



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