よるのばけもの

 旅人は、炉端で焼ける串刺しの肉のにおいと、炎のオレンジ色に見入っていた。ここ数日碌に食事をとっておらず、唾を呑んだ。
「たくさんありますから、落ち着いてください、旅の方」
 農家の男は柔和な表情で、焼きあがった肉串を旅人に渡す。旅人は受け取ると、口いっぱいに頬張る。
 臭みはなく、適度に脂があり、甘く、美味かった。
「もう、一本どうぞ」旅人は笑顔で口にして、さらに振る舞ってもらった酒を呑んで、顔は紅潮して綻んだ。
 アルコールが回り、よろりと立ち上がると、農家の男は口角をあげた。
「もう夜ですよ。どこへ行くのですか、奥の部屋でお休みなさい」
「いや、小用に」
「そうですか。済ませたら、すぐに戻ってきてください。そうでないと、化け物にさらわれてしまうので」
「分りました」
 旅人が外にでると、むせ返るような虫の音が響き、朧月が微かに森を照らしていた。狼の遠吠えに肩がすくみ、震えながら小用を済まし、忠告どおりすぐに家に戻った。
 それからも、和やかな雰囲気で身の上話や、旅の話で盛り上がり、酒の力も手伝って旅人はあっけらかんと質問した。
「ところで、人間をさらう化け物って、どんな奴なんです?」
 農家の男は、表情を崩さず、間をおかず答えた。
「あれは方便ですよ。このあたりは獣が多いので、危険なんでね。それはそうと、そろそろ、眠ったほうがいいですよ。お疲れでしょう」
「では、お言葉に甘えて」
 旅人は奥の部屋に移動し、用意された布団で眠りに落ちた。
 数日後。
 旅人は、炉端で焼ける串刺しの肉のにおいと、炎のオレンジ色に見入っていた。ここ数日碌な食事をとっておらず、唾を呑んだ。
「たくさんありますから、落ち着いてください、旅の方」
 農家の男は柔和な表情で、焼きあがった肉串を旅人に渡す。旅人は受け取ると、くちいっぱいに頬張る。
 臭みはなく、適度に脂があり、甘く、、、、

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