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「動物病院四方山」23(頑張れコサギさん! 01 『めまい?』)

私の名前は「みぃ」
動物病院で暮らしている猫
私が経験した動物病院での四方山話を紹介しています

前回の動物病院四方山話はこちら


病院の電話が鳴った。

「家の庭で二日前から野鳥がずっと同じ場所にいて、じっとしていて動かないんです。」
「野鳥って、診てもらえますか?」

早速連れてきていただく事に。

・・・二日間も同じ所でじっとしていたとはどういう事だろう?

昨日、うちの病院は休診日だった。
昨日他の病院に電話したが、診てもらえるところが見つからなかったらしい。

市役所に電話をしても、『亡くなっている場合は引き取る』との返事だったらしい。

おかしい・・・

市役所の森林課から何度も野鳥の治療依頼を受けたことがあるので、野鳥を受け入れてくれる動物病院を探してくれるはずだが・・・
電話対応した人は知らなかったのかもしれない。



* * *

めまい?


間もなくして、保護していただいた方が来院されたの。
大きな高さ60センチほどある段ボールをそーっと抱えて。

そのダンボールを開けると、白い鳥さんが立っていたの。
おそらくシラサギさん。

保護された方のおうちは川のすぐ近くらしいの。
その川には確かにサギさん達をよく見かけるのよね。

あっ、一平ちゃん気を付けなさいよ!
あなた、以前にアオサギさんに額をつつかれたことがあるでしょ!

一平ちゃんも心得てるみたいね。
つつかれないように、用心しながら診察をしてるわ。

そっと抱えて診察台へ乗せてあげたの。
シラサギさんは頭を羽の中に潜らせてじっとしたまま。
人間に触られても暴れもしないわ。

そっと頭を持ち上げてあげても、首をうなだれて覇気が全く無い。
目も閉じたまま。

頭をあげている時に少し観察していると、首(頭)が水平にゆっくり揺れているみたい。
2秒ほどかけてゆっくりと左に向いて、スッと元に戻る感じなの。
この水平運動を繰り返していていたわ。

「『めまい』かもしれない」

一平ちゃんがボソッと呟いた。


* * *

ちょっとここでワンちゃんのめまいについて説明するわね。

「めまい」っていいったら、こんなイメージよね

実は、ワンちゃんがめまいの症状を出した時は、眼球が水平に動くの。
(病気によっては垂直方向に動く事もあります)

眼球がゆっくり左右どちらかに動き、すっと元に戻るのです。
これを繰り返すの。

私達猫で説明すると、こんな感じで左右に目の玉が動くの


これは平衡感覚の異常なんだって。
だから頭が左右どちらかに傾く事が多いみたいよ。
重症の場合は四本足でも立っていられなくて、どちらか一方にクルクル回転して転がってしまうんだって。

おうちのワンちゃんがこのような症状になったら、夜も電気を点けたままにしてあげて下さい。
平衡感覚が分からなくなっているので、電気を点けることで明るい方向が上だと分かりやすくなります。
真っ暗になると、上下の判断がつかないのでワンちゃんたちは余計に不安になります。

里塚解説


* * *

鳥さん達って、体を傾けても頭は常に水平を保つ特殊な能力があるのね。
そういう特殊性から、一平ちゃんは鳥さん達のめまいは、

眼球が動くのではなく、頭が動いてしまうのでは?

と考えたみたい。

鳥のめまいは診断したことが無いので、想像の域を脱しないんだけどね。

となると、めまいの原因は?

平衡感覚をつかさどるのは『脳』
という事は、頭を打った?

鳥さん達でよくあるのが、窓ガラスなどにぶつかって脳震盪を起こすこと。
激しく打つと脳出血などの重症になるかもしれないわ。
脳の中は特殊な検査をしないと分からないので、経過を観察して判断するしかないわね。

一平ちゃんが保護した方に説明し始めたわ。

「この子の頭を見てください。」
「頭がゆっくり左に動いた後に、スッと元に戻りますよね?」

左の写真から2秒ほどかけてゆっくり右の写真のように首が動きます
その後、スッと左の写真の状態に戻ります

この動きをずっと繰り返すのです


「おそらく、『めまい』の症状じゃないかと思うんですよ。」

「ワンちゃんの場合は、めまいの時は目の玉が同じような動きをするんですよ。」
「片方にゆっくり動いてスッと戻るような動きを。」

「鳥さんのめまいは見たことが無いんですが、この首の動きはその動きにそっくりなので、おそらくめまいの症状だと思うんですよね。」
「めまいって、平衡感覚の異常なんですが、平衡感覚をつかさどっているのが、『脳』なんです。」
「だから、この子は頭を強く打った可能性があると思うんです。」

保護された方は心配そうにお話を聞いておられたわ。

「脳のダメージが大きかったら、おそらく一日も命が持たなかったと思うんです。」
「今日で三日目っておっしゃいましたよね。」
「今まで症状が進んでいないとしたら、少しずつ良くなってくれる可能性はあると思います。」
「今後の様子を見ないと分からないんですが・・・」

「このまま症状が悪化しないようだったら、栄養補給をしてあげて体力が低下しなければ、徐々に回復してくれるかもしれません。」

「お預かりして、強制給餌をしてみますね。」

こうしてシロサギさんをお預かりすることになったの。

目を閉じたままのシロサギさん。
具合が悪そう・・・
少し刺激すると眼はかろうじて開けてくれるんだけど、すぐに閉じちゃうの。

少し目を開けてもすぐ閉じてしまいます
具合が悪そうです


それでも、二本足で微動だにせず立っているのよ。

ただ、すぐに首を折りたたんで顔を羽の中に隠してしまうんだけど。


ちなみにシロサギさんって、

ダイサギ
チュウサギ
サギ

の総称らしいの。
ってことね。

この子は一番小さな
コサギ
ペリカンの仲間らしいわよ。

繁殖期のコサギさん達は、頭の後ろに冠羽(かんう)が付いているの。

冠羽が2本あります

この写真でも目を閉じてます


体も小さめ。
この子は400グラムだったわ。

小魚やザリガニなんかを食べるんだって。
でも、小魚を用意するのは無理よね。

そこで一平ちゃんは考えました。
犬猫用の、栄養価が高くて流動食にもできるペースト状の缶詰をあげることにしたの。

注射器の先を切って、その中にペーストを詰めます


コサギさんの口を開けて、のどの奥にこの注射器で流動食を流し入れるのよ。

強制的に口の奥に入れるので、『強制給餌』って言うんだけど、あんまり良い響きじゃないわね・・・

何とか飲み込んでくれたみたいで一安心なんだけど・・・

コサギさんは抵抗する力も無いみたい。

それにしてもコサギさん、ちっとも動かない・・・

大丈夫かしら・・・

つづく

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