弓子物語⑨夫の死から終章
夫の真一は、82歳から大腸がんに侵されていた。
真一は高度医療を拒んでいたため、放射線療法と鎮痛剤投与でしのいでいた。
老人の癌は進行が遅いものであるが、真一の場合は意外と進行が速く、直腸まで転移していた。
弓子は、書道塾から身を引いて、必死に夫の看病に当たっていた。
その介護も虚しく、2058年、夫の真一死去。
行年84歳。弓子は79歳であった。
真一も鎌倉の共同墓園に納められた。
たった一人で豪邸に残された弓子は、自宅を手放し、東京都あきる野市にある老人ホームに入居